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第9話 もう一人。連れてきます。:管理人

車を走らせ、コンビニの駐車場に入る。お店から少し離れた位置に。 ここで待ち合わせしてる…この店だよな?間違ってないよな。 そして時間通りに、そいつは現れた。 「えっと、すみません…」 あぁ、この子だな。ほう、素直そうな子じゃないか。まだ若いな。 「どうも。えっと…」 今日はこの子に、パソコンを渡しに来たんだ。とりあえず、2台って言われたから、ホントに2台持ってきたけど。 「はい、欲しいです。でも、いいんですか?オレお金持ってませんよ。」 あぁ、大丈夫大丈夫。タダでいいよ。使ってもらえるなら。 そう言って、ちょっと古くなってきている、小さめのノートパソコンを渡した。 ハードディスクもメモリも取り替えて、まあそこそこ使いやすくなってる。 実際、このノートパソコン、2台で2万円で仕入れたものを、ちょっと改造して 使えるように直したものだ。 「いやー、ありがたいです。ホントに、助かります。」 そういって、その時はそのまま終わって、別れた。 *  *  * LINEでのやり取りを続け、その後に数回会うことがあった。 また別の町でカフェに入ったときは、そのパソコンにいろいろソフトを入れて、いろんなサイトに入り込んでると言ってる。…ほう。あんまり変なところ入るなよ。 「今は、いろんな書類をダウンロードしたりしてます。企業秘って書いてる書類とか、けっこうごろごろ落ちてたりするんですよ。」 これは笑った。そうか、そっち系の書類ねえ。これ以上はちょーっと、危険な世界に入り込む。言ってみれば、ハッカーみたいなものだ。もちろん、のぞき込むだけなら大丈夫だけど、クラッシャーになると、のぞき込んだ先でデータを削除したり、悪意のあるブツを置いてくるものもいる。 まだこの子は、そこまでやってないようだけど。 それでも、そっちのダークな話も、私はけっこう知っているので、どんどん話も首も突っ込んでいく。2時間くらいの時間なんて、あっという間だった。 ここで、素性をちょっと聞いてみた。 16歳だった。私より背が高くて落ち着いてるから、20歳と言っても通用するかもしれない。…ん?ということは、高校は? 「あー、オレ、行ってないんですよ。」 あ、そうなんだ。じゃ、これからどうするの? 「パソコンの専門学校とかに行きたいんですよね。東京の学校だと、入学金が高くて。そこに行けるかどうかが…。お金がないから、なんとか稼いで、いずれ行けるようになりたいと思って。」 パソコンを手に入れてから、いろいろ調べてるようだった。けっこう、頭は良さそうだから、 お金と機会があれば、すぐにでも行けるようになるんじゃないかなあ。 *  *  * 途中でちょっとブランクがあって、連絡が付かない時期はあったりしたけど、 今の環境が、やっぱり働くことに適していないから、どっか外で働けるようになりたい… という書き込みになってきていた。 そしたら、ウチのシェアハウスに来てみるかい?と書いてみた。 良いんですか?ぜひぜひ!あーそしたら相談しなきゃなどなどの返事が来た。 その後、その住んでるところの管理人さん…かな?…な人から、同じLINEでメッセージが来た。 いわゆる、よろしくお願いします、という内容だった。 そして引っ越しするときに、いろいろ手続きが必要になる、ということも書かれていた。 あー、手続きかあ。なるほど。 *  *  * とりあえず、シェアハウス側も、ひと部屋分の空きを確保し、いざ、引っ越しの車を出す。 車と行っても、いつもの乗用車ひとつ。布団くらいしか持ってくものは無いんだとか。 あっと、それとあのパソコンか。ふーむ、これはまた、ミニマリストだな。それしか荷物が無くて、生活できるのかな? 日差しが強い中、地図を頼りに、指定された場所へ向かう。 あの子、名前は「C」とします。連絡したら、外に出て来てくれて、駐車場に車を誘導してくれた。 そうしてここの管理人さんにご挨拶。 「これははじめまして。よろしくお願いします。でも、本当によろしいんですか。そうしたら、こちらの書類に名前を書いていただきたいんですが。」 書類はあまり目を通さなかったが、はいはいと名前を書いて渡す。 その間に荷物は車に詰めていった。布団と、袋が3つあるだけだった。ホントに、これだけだった。そういえば、Rくんが来た時もリュックひとつだけだったからなあ。最近の若い子って、そういうものなのかな。 それからしばらく、かれこれ30分ちょっと、Cくんは中に入ったままだ。おそらく、管理人さんと話をしてるんだろう。 そうして管理人さんと一緒に出てきたCくんは、車の横まで来ると、管理人さんに向かい、深々と頭を下げた。 「うん、そしたら、行ってらっしゃい。そっちでも、ちゃんということ聞くのよ。」 お母さんみたいな言い方をしている。Cくんも、はい、はい、みたいな応答になって、車に乗り込む。 「それでは。」 と、会釈をし、車を走らせる。 信号を曲がったところで、どう?と聞いてみる。 「んっと、…なんでしょ。とりあえず、まぁやっていこうと思って。」 と言った。そして、車の中で改めて、ウチのシェアハウスのことを話し、そしてCくんのことも話してもらった。 引っ越すシェアハウスの近くに、地区担当の保護司の方がいるので、そこへ挨拶することになっているんだそうだ。あとはパソコンを使って探すのと、知り合いに仕事があるか聞いてみるんだそうだ。 分かる人は、もう分ったでしょう?Cくんは、少年院を経験した子だ。 さっきの住んでたところも、その管轄の建物。 前科は付いていないようだけど、小さな経歴がいくつかあるようだ。 まあ、今まであったことは良しとして、それを経験にして、今後生きていくようにしたら いいんじゃないかな、と、話した。 「そうですね…」 と、短く言った。 *  *  * これが、4年前のこと。 今では成長した。大きくなりましたw。

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