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第10話 新しい生活が始まる:同居人C
管理人さんの車に乗ったとき、本当は、すごく緊張してた。
普通の家に住むなんて…。
実家だって3年は戻ってない。今は遠くなったから、そんなに簡単に帰れるわけでもないし。
それに、管理人さん、一応俺の経歴は話したけど、すげーサラッと流された。
万引きしたとか捕まったとか、さっきの車の中で、初めてしゃべったけど。そういうことを、サラッと。あっそう、って感じで流していく。
こんな風に普通のことのように話すなんて、この人、何者なんだ?
「…、…して、…、…くようにしたらいいんじゃない?」
ん?あ、え?あぁ、ちょっとボケッとしてた。
「ふふふ、昨日は寝れた?いいよ、ゆっくりしてて。これからは、向こうが、自分の家なんだからさ。」
う…ん、そうだな。これからだもんな。
「はい、着いたよ。ここの、入って右の部屋ね。」
布団は持ってくれたので、俺は袋を持って上がる。
「パソコン部屋は、奥の左にあるから。ちょっと狭いけど、ここでいいかな。」
パソコン2台分のスペースを確保してくれてた…けど、なに?パソコンが2つ、3つ、4つ…えぇ?ここ、何?
「ああ、今はちょっと副業でね。中古のノートパソコン売ってるんだ。売れればいいけどw。後ろの2つは売る用のパソコンだよ。」
え、どうやって売ってるの?
「オークションがあるんで、そこに出品してるんだ。1台当たり15,000円の利益になるから、まあまあ稼ぎになるんじゃないかな。」
へえー、ホントに、この部屋で仕事やってるんだ…。
「あぁそれと、Wi-Fiのパスワードはこれね。パソコンはLANケーブルの方がいいけど、無線も設定できるから、好きな方でやってみて。速度が速いのは、やっぱり断然ケーブル接続の方だけどね。」
と、スマホとパソコンをいじって、この日は後片付けだけで終わってしまった。
翌日は、この近くにいるという保護司さんのところに行ってくる。
いわゆる、全国にいる、世話役おじさんのことだな。
未成年の、警察にお世話になった人は、こういった保護司といわれる人に管理されることになっている。
もっとも、月に一度の報告くらいでいいんだけどさ(ここのおじさんの場合はそうだってさ)。そのタイミングで、このおじさんに会って近況報告しなければならない。
俺もまだ未成年だから、あと3年くらいは、こういうことを続けていかなくてはならないんだ。
あー、早く大人になりてぇーっ!
* * *
んで。
このシェアハウス、言われてた以上に、ホントに、自由だな。
外出も買い物も自由だし(お金がありゃなぁ)、
住民票もここに移したし、郵便物も自由に送ってもらえる。
食事も「冷蔵庫の中、お米、ラーメン、なんでも食べていいからな」なんて言ってくれてるし。
ついでに仕事してなくても、文句も言われない。ま、稼がなきゃならないから、それはやるけど。
それに同居人たちも、みんな歳上だけど、全然気を使わない。挨拶をちょっとするだけで、他には話をすることも、あまりない。だから気楽に、自分のことに集中できる。
それはいいんだけど。そこまではいいんだけど。
他の同居人とか管理者さんの、オナニーとか裸とか、そこまで自由なのか?
けっこう、フツーに聞こえてくるし、風呂上がりはそのまんまでうろつくし。
いやいや、俺はホモとかじゃねぇから。
別に男の裸なんか見てたくねぇんだよ。
こういうところに住まわせてもらって、本当にありがたいって思う。これはホントに管理人さんには感謝してる。だけど、さっさと他の家を見つけよう。他のところに住もう。
* * *
てな訳で、俺も新しい住所でいろいろ手続きして、ささやかな収入を手に入れていって、だけどやっぱり現金が足りないから、ちょいとした小物は拝借して転売してたんだけど、
「あ、ちょっといいかな。どうかな、最近は。稼いでる?」
と、家に二人になったタイミングで、管理人さんに呼び止められた。
マジで、焦った。バレたかな?怒られるかな?
「いまはCくんは、まだ未成年だろ?まだ保護司さんに面倒見てもらわなきゃならないだろ?」
やっべ!!これ絶対バレてるっ!!どうする?
「だから、あと3年は、我慢してろ。成人になったら、そういうことが無くなって、全部自分自身で決められるようになるだろ?いろんな手続きも、その分責任もだけど、自分で全部出来るようになるだろ?仕事も、引っ越しも、結婚も。
未成年のうちは、なんかやろうと思っても、…ハッキリ言うよ。無理だから。だからあと3年待て。それからだったら、本当に、なんでも出来るから。」
俺は、その話を、じっと聞いていた。頭だけ頷いて。
「だから、あと3年は、ここにいて、我慢してろ。
もうね、3年なんて、すぐ来るから。それまでは、ずっと此処に居ていいから。なんかあったら、ここに来ればいいから。大丈夫だからね。…うん、、それだけ。」
そうしてピッと手を上げると、パソコン部屋に戻っていった。
はぁあ~…、なんか、ほっとしたというか、安心したというか。
…、うん、万引きは辞めよ。もう、しちゃいけないよな。
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しばらく音信不通になってましたが、また復活できました。 小説も続きを書いていこうと思っています。 c君のモデルの子も、もう成人になって、元気でいます。 いまだ五里霧中の様子ですが。帰れる場所がある間、いろいろやってみるといいと思っています。
今なら、c君の氣持ちがすごいわかる。ある程度要領を学んだなら、早く大人になりたいよね。責任が伴うけれど、自分の好きなように振る舞えて、仕事してお金稼いでって、夢があっていいね。 精力的なのは素晴らしいことだ。 c君も若い頃は自分の振る舞い方というか、自分を表現する仕方が分からなくて、苦労しただろうな~。 窮屈な環境で精一杯頑張ったんだろう。 閉塞感は相当な物だったろうと思います。 今はアグレッシブになってるみたいでよかったです。管理人さんとも、シェアハウスの同居人とも、いい縁がありましたね。捨てる神あれば拾う神もいるってことわざが、ふと頭に思い浮かびました。
コメントありがとうございます。 このCくんは頭の回転が良くて、人懐っこくて、だけど我が強くって、 なかなか独特なキャラですね。オラオラ系だから表に立つ性格なので、 これも後々お話がありますので書いていこうと思ってます。 モデルの当人は、今でもウチに住んでます。 今年はさらに活動的になってるので、ちゃんとオレの話を聞いてたんだなぁって思いましたね。 ウチを卒業した元同居人も、連絡付く人は一人いますね。 ソヤツもまたアンダーグラウンドの人生なので、シリアス度増し増しになってしまいます。
更新、ご苦労様です。cさんの心情がうまく表現されてて容易に想像できます。シェアハウス、見ず知らずの他人と一緒に住むっていうと、息苦しく感じますが、このシェアハウスは居心地がやっぱり良さそう。 cさんはノンケかな?あと、早く他の家を探して住もうっていう心情は、悪いことをして管理人や同居人に説教を受けたり幻滅されたくないからなのか、性的なものがいやなのか、考察のしがいがあります。 最後の節、小物を拝借という表現が気になって、うん?と思っていたら、万引きでしたか。cさん側の視点で、管理人さんの言葉を聞いていたら、なんか安心しちゃいますね、説教というか注意とは違う感じ。諭すみたいな、万引きをやめる決心してよかった。ところでcさんは現在も管理人さんのシェアハウスで暮らしているんですか?四年前のこと、と書いてあったので。それとも定期的に連絡をとっている? もしよかったら答えてくれると嬉しいです。