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第5話
「おはよ、黒澤くん。黒澤くんも早く来たんだね」
朝練に参加させてもらえるようになったその日、勇大は自宅から徒歩40分の距離をトレーニングついでに走って登校してきた。
すると、たまたま登校してきた隆志と鉢合わせになる。
「お、おはよう」
笑顔の隆志に、勇大はドキッとしてしまう。
自分が恋をしたという事に全く気付いていない勇大だが、隆志の笑顔を見ると嬉しくて堪らなかった。
「センパイ方が来るまで、一緒に練習する?」
「いいの?俺、君の足を引っ張ると思うけど」
「そんな事ないよ、オレ、あんまり走ったり出来ないから休み休みになっちゃうし。センパイ方もまだ来てないからさ、気楽にやろうよ」
笑顔を絶やさない隆志。
「ありがとう、よろしく頼むよ」
勇大も笑顔を返した。
グラウンドに向かいふたりで準備運動をしていると、そこに唯もやって来たので3人で練習を始めた。
隆志は休み休みでの参加だったが、勇大はふたりのレベルの高さを見せつけられ、自分の未熟さを痛感した。
「黒澤くんの場合、ここで蹴ってみればいいんじゃないかな?」
「オレもそう思う。黒澤くん、ちょっとやってみようよ」
そんな自分に、ふたりは親切に教えてくれて、アドバイスしてくれる。
勇大はそれに応えるべく、教えられた事をなんとかやろうとしていたが、なかなか上手く出来なかった。
そうしているうちに上級生が集まり始めたため、勇大は出来ないまま終わってしまった事を恥じ、昼休みにひとりで練習する事にした。
「黒澤くん」
急いで昼食を食べてグラウンドで練習していると、そこに丸い黒縁メガネをかけた隆志が現れる。
「練習してるの?休む事も大事だよ。制服じゃ動きずらいし」
制服で練習していた勇大をやんわりと窘める隆志。
メガネをかけていてもその愛らしい笑顔は変わらない。
「白川くん。でも、俺、君や灰田くんと違って下手だから」
「うん、分かるけど、やりすぎも良くないから。ね、学食に売ってるクリームパン、美味いらしいから買いに行こうよ」
「わ……っ!!」
ふたりになんとか追いつきたい。
焦る勇大に対し、隆志は笑顔でその手を引いてグラウンドから学食に連れていく。
「クリームパン、ふたつくださーい!!」
捲られたワイシャツから除く白い腕は自分のそれより細く、華奢に見えた。
それに見惚れているうちに、隆志がクリームパンを買ってしまう。
「はい、オレの奢り。美味かったら今度は黒澤くんが奢ってね」
「…あ、ありがとう……」
「こっちで食べよ?」
「あ、あぁ……」
一緒に歩いていると、周りの女子たちが隆志にうっとりしているのが見えた。
そんな隆志に手を引かれて歩いている自分に、勇大は少しだけ優越感を覚えた。
「んま〜!!これ、明日買ってね」
食堂の空いていたふたり用の席に向かい合って座ると、隆志が嬉しそうにクリームパンを頬張る。
その姿が愛らしくて、勇大は見惚れてしまっていた。
「黒澤くんも食べてよ」
「あ、あぁ、ごめん」
明るくて、気さくで、笑顔が堪らなく可愛くて、サッカーが上手くて。
自分とは不釣り合いのはずなのに、こんなにも優しくしてくれて。
勇大は嬉しさと同時に信じられない気持ちになっていた。
「美味いよね?」
「う、うん、美味いね」
勧められたクリームパンはパンの柔らかさとクリームの甘さのバランスが良くてすごく美味しかった。
が、勇大はアップで迫ってきた隆志の方が気になってしまっていた。
「じゃ、明日ヨロシクね!黒澤くん。一緒にお昼食べよ」
「えっ、あっ、うん…」
隆志に見蕩れているうちに明日の予定が決まってしまっていた。
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