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第9話
慌てて部屋に戻り、勇大はすぐに布団を被って寝ようとした。
が、目を閉じると先刻の隆志の顔が、そして自分がしてしまった事が浮かんでしまい、なかなか眠れなかった。
(あぁ……気づいたら朝だった……)
眠いというよりは身体がだるい感じがした勇大は、目を覚ますために施設にある風呂に入る事した。
「おはよう、勇大。昨日は心配かけてゴメン。もう大丈夫だから」
そこで、風呂上がりらしい隆志と遭遇してしまう。
「おっ、おはよ!そ、そっかぁ、良かった」
笑顔の隆志の唇をついつい見てしまう。
「……なんか疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「えっ、いや、その、大丈夫だ!ちょっとなかなか寝られなかっただけで!これから風呂入ってスッキリしてくるから!!」
心配そうな隆志に、勇大は平静を装おうとした。
「そう……無理すんなよ」
「あ、ありがとう、隆志。じゃあまた後で」
勇大は自分はもちろん、隆志の様子もいつもと違う気がした。
(参ったな。隆志にどう接していいか分かんなくなっちまった)
隆志に対してどうしてもよそよそしい態度を取ってしまうようになってしまい、唯からも心配された。
「あの…さ、俺で良かったら話聞くよ。勇大と隆志が気まずい感じなのを見ているの、辛いんだ」
隆志が練習を見学している間に唯からそう言われ、勇大は迷った。
が、自分ひとりではどうにも解決出来ないと思うと、腹を括った。
「唯、聞いてもらっていいか?」
「うん、もちろん」
夜の自由時間、勇大は唯に声をかけ、施設の外でふたりで話をする事にした。
「えっ!?よく分からないけど隆志にキスしちゃったの?」
「しっ!声がデカいって!!」
昨日の出来事を正直に話すと、唯に驚かれる。
「よく分からないって何だよ。それ、単純に隆志の事が好きになっちゃったんだじゃないの?」
「だから、それがよく分かんねぇんだよ!俺、人を好きになった事、今までないから」
「あー……そうなんだ……」
唯はどう返答していいのか、という雰囲気を出しつつも話を聞いてくれていた。
「お前はあるのかよ。好きになったり、キスしたりとか……」
「……ん、まぁ、一応ね。でも、初めての時は自分からキスしたいって思った訳じゃなかったんだ。だから次にキスする時は自分がしたいって思う人がいいなぁ、って思ってるよ」
照れくさそうに頭を掻きながら話す唯。
「って、俺の話はいいんだよ。勇大、隆志に内緒でキスしちゃったからよそよそしい態度をとってるって事だよね。隆志からしたら今まで仲良くしてた勇大がいきなりよそよそしくなってびっくりしてると思うよ。言いにくいとは思うけど、これからも隆志と仲良くやっていきたいなら、ちゃんと気持ちを伝えた方がいいよ」
「伝えるって……何を伝えればいいんだよ」
「うーん、とりあえず、寝てる時にキスしちゃった事を謝ればいいんじゃない?それでどうしていいか分からなくなって、よそよそしい態度になってたっていうのも説明してさ。それで隆志がどう思うかは分からないけど、隆志ならこれからの事を考えて変な方向になるような事はしないと思う」
「……そっか。そうだよな。これから3年間一緒にやってく仲間だもんな、気まずいままじゃダメだよな」
いつもは少し頼りないところがある唯が、今日はとても頼もしく感じた。
「サンキュー、唯。隆志に話してみるよ」
「あぁ、頑張れよ、勇大」
『好き』の感情は分からないままではあったが、勇大は唯に話した事で隆志と向き合う勇気が持てた。
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