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第20話

新監督の指導と唯、そして隆志の活躍もあり、サッカー部は最上級生の最後の大会で初の準優勝を果たしていた。 勇大も後半だけではあるがフル出場を果たす事が出来、成長した自分を感じる事が出来た。 次は勇大たちが部を引っ張る立場になる。 そんな時、勇大は現キャプテンの三笠天音(みかさあまね)からふたりだけで話がしたい、と昼休みに部室に呼び出されていた。 「悪いな、急に呼び出しちゃって」 「いえ、次の授業自習なんで大丈夫です」 天音には入部した時から同じDFである事もあるからか気にかけてもらっていて、勇大にとって信頼している先輩だった。 勇大よりも少し低い身長で割と華奢な体格ではあるものの、部員たちひとりひとりに気配りの出来る優しさが皆に慕われキャプテンに選ばれていた天音。 そんな天音から今までこうしてふたりきりになって話す事などなかったので、勇大は少し緊張していた。 「次のキャプテン、お前に任せたいんだ。お前なら皆をまとめていけると思うんだよ」 「でも、俺は隆志や唯みたいにサッカーが上手い訳じゃ……」 天音の言葉に戸惑う勇大。 すると、いきなり天音が抱きついてくる。 「確かにあのふたりよりお前は実力は劣ると思う。でも、お前は真面目で練習熱心だし、後輩の面倒見もいいから適任だよ。オレ…そんなお前がずっと好きだったんだ…」 「え……っ!?」 思ってもみない天音の言動に、勇大は困惑する。 「入った時は可愛い感じだったのに、どんどんカッコよくなっていくお前を見て、ずっとドキドキしてた。言わないまま引退しようって思ってたけど…白川といつも楽しそうにいる姿を見てたら言いたくなって…」 「三笠先輩……」 天音がすごく胸を高鳴らせているのが伝わってくる。 けれど、勇大はその身体を離していた。 「すみません、キャプテンの話はお受けするかどうか前向きに考えさせて欲しいんですが、先輩のお気持ちには応えられません」 「……だよな。お前、白川と付き合ってるんだろう?去年、学祭の劇でキスしてたよな」 「あ…、あの時はまだ付き合ってはいなかったし、俺、隆志の事好きかどうかも分かってなくて……」 天音の言葉に気が動転した勇大は余計な事を話してしまう。 それを聞いた天音は今にも泣き出しそうな表情を変え、少し険しい顔つきになった。 「好きかどうかも分からなくてあんな事したなら、今この場でオレとキスくらいしてもいいよな、黒澤」 両頬に手を添えて話す天音。 その距離が近づいてきたが、勇大はその手を払っていた。 「すいません!出来ません!!俺、もう隆志が好きだって自覚してるから、いくら先輩でも出来ません!!本当にすみません!!」 勇大は隆志を裏切るような事は出来ないという思いから、天音の願いを容認出来なかった。 「そっか……そうだよな、お前はそういう奴だよな。そんなお前だから好きになったんだった……」 天音の目に涙が溢れていく。 「……なぁ、じゃあせめてキャプテンの話は受けてくれよ。オレ、お前以外にはオレの後に続いて欲しくない……」 「……分かりました……」 泣いている天音を、勇大はただ見つめていた。 こんな実力のない自分がキャプテンになっていいのか。 そんな想いが胸の中に渦巻いていた。 「……副キャプテンはお前が決めていいから。お前は白川を選ぶんだろうけど……」 「…………」 涙を拭う天音を前に、勇大は何も言えずにいた。 天音が部室を出ようとするので勇大も後に続く。 ドアを開けた瞬間、そこには隆志が驚いた顔でこちらを見ていた。 「隆志…」 「す、すみません!もうすぐ予鈴鳴るから…って思って……」 「……本当に黒澤の事が好きなんだな、白川は」 「!!」 天音からの一言に、隆志は顔をこわばらせる。 「白川、黒澤の事、しっかり支えてやれよ。黒澤にはお前しかいないんだからな」 まだ涙の残る顔で、隆志の肩を叩く天音。 「……はい!」 そんな天音を、隆志はまっすぐな瞳をして見るとはっきりとした口調で答えた。 「お前が羨ましいよ。頭も顔も良くてサッカーも出来て…黒澤に愛されてて…」 そう言うと、天音はふたりの前から走り去る。 その時、予鈴が鳴った。 「帰ろ、勇大」 「あ、あぁ……」 隆志に促され、勇大は一緒に教室に戻る事にした。 けれど、ココロの中は今後の事への不安でモヤモヤしていた。

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