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第29話

「ねえ、航太、お腹空かない?」 俺は実家ではなく、一人暮らしのアパートでゲイビ仲間の和樹と裸でベッドに横たわってた。 いわゆる、セフレ。 最近、共演し、懐かれた。 俺はすっぱり雄大のことを諦めるつもり、だった。 突然、玄関のチャイムが鳴り、上半身は裸のまま、ドアを開けると雄大だった。 「これ...母さんが持ってけ、て」 ビニールにたくさんのみかん。 「ありがと、わざわざ」 タバコ銜えたまま、受け取ると、 「誰ー、航太」 「あー。弟の雄大」 「弟さんかー、初めまして、雄大くん?俺、和樹、よろしくね」 同じく上半身裸の和樹が右手を差し出したが、雄大はその手をしばらく眺めたまま、握ることはなく、 「じゃ、渡したからね」 と、帰っていった。 自転車をこぐ雄大を無言で見送った。 「なにー、愛想のない子」 「とりあえず入れ」 それから数日後、母さんから連絡があり、久しぶりに実家に戻った。 父さんからの単位や出席日数の少なさのお説教だった。 あまりに酷いと部屋を解約する、と言われた。 俺は実家の自分の部屋でため息。 最近はゲイビの撮影の方が忙しかった。 ドアがノックされ、珍しく雄大が入ってきた。 「宿題でわからないところ、あんだけど、教えてくれる?」 とノートやプリントを持ってきた。 テーブルを挟み、公式を教えてやった。 「ありがと、わかりやすい」 間近に雄大の顔があり、一瞬、びっくりした。 「なにも聞かないんだね」 と雄大。 「聞くこともないからな」 雄大はしばらく無言だった。 「この間の彼氏?」 「お前に関係ないだろ、タクヤさんのことでも考えてろ」 「別れたよ」 「ふーん...えっ?」 なんとなく、雄大がもどかしそうだった。 「あっそ」 「...それだけ?」 「なに?慰めて欲しいわけ?」 いきなり、近くにあった物を投げつけてきた。 「兄ちゃんのわからずや、おたんこなす!」 「お前、なにがしたいんだよ」 「自分で考えろ!鈍感!」 プリントもノートも忘れて、勢いよく雄大は部屋を出ていった。 仕方なく、雄大の部屋をノックした。 「入るぞ」 忘れ物、とテーブルにプリントとノートを置き、背中を向けた。 また物が背中に飛んできた。 「さっきからなんなんだよ、お前」 「鈍感!バカ!アホ!わからずや!」 さすがにムカッと来て、 「さっさと寝ろ、ガキ!」 と後ろ手にドアを閉めた。 閉めたドアに物をぶつける音がする。 春樹に振られ、タクヤさんに振られた腹いせだろう。 次の日には俺は一人暮らしの部屋に戻った。 すぐにセフレの和樹がやってきた。

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