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第5話「台所」
「手伝う」
「うん。ありがとう」
義人は料理が出来ない。
藤崎がその事を知ったのは1年前に初めてこの家に義人が遊びに来たときだった。
最近はこうして2人で作る事が増えたのは成長の証だ。一緒にキッチンに立つのはお互い楽しく、藤崎からすれば何より近くに義人がいてくれるのが嬉しくもある。
苦手な事を克服しようと言う彼にも惚れ直すが、そんなこんなで一緒に料理が出来るのは助かるしいい事だった。
考えながら、途中の揚げ物屋で買った豚カツを切る。義人はタマネギを切っている。
「カツ丼カツ丼どどんどんどんどん」
「耳につきそう」
藤崎の自作の歌に、はは、と包丁を持つ手を止めながら義人が笑う。
「カツ丼かつど」
「耳元で歌うな!」
「ははは!」
こうやってからかうと、耳も顔も真っ赤にしながら怒ってくるところは1年前からさほど変わらない。
「お前自作の歌多いよなあ」
藤崎は義人との関係を使い分けるようにしていた。
男だろうが女だろうが構わないけれど、義人が気にしている事も視野に入れ、無理ない範囲で普段は友人、親しく理解ある友人といるときと2人きりのときは恋人。
そうやって役割を変えて、この1年を過ごして来た。
「っん!」
「佐藤くん?」
「いってー、あー、泣ける!!」
言いながら、目をごしごしと擦り始める。
玉ねぎを切っているせいか、目が涙ぐんでいた。
「やめな、腫れるよ」
そう言いつつ、藤崎も少し目が痛い。
沁みるような感覚に、じわじわと涙が溢れてくるのが分かる。
「うっせ。あー、止まんねえ、めっちゃ涙出る」
「やーめーろって」
カツを切ってぎたぎたになった手を洗い、掛けてあるタオルに水分を押し付け、綺麗になった手で義人の腕を掴んで目を擦るのをやめさせる。
刺激に弱く腫れやすい義人の目元は既に赤くなっていた。
「こすんない」
「痛いんだって」
「こっち向いて」
自分の服の裾を捲り上げ、藤崎は義人の目元をゆっくりと拭いてやる。
「んー、、」
ギュッと目を閉じたままされるがままにする義人を見て小さく笑いが漏れた。
(無防備だなあ)
「可愛い」
ポツリとそんな声が漏れる。
「はあ?」
まだ拭き切れていない涙をこぼした瞳が、ゆらゆらと揺れながらこちらを見上げてくる。
義人の真っ黒な目は奥が見えず、藤崎の濃い茶色の目と違って光が入り辛い筈なのに何故だかキラキラとしていた。
「あ、」
「え?なに?」
「ヤバいスイッチ入った」
「は??」
「いやもうこれ夕飯いらねえわ」
「お前何言ってんの?」
目が痛いと再び暴れ始める義人を見下ろし、掴んだ腕を離さないまま抵抗する彼を無理矢理抱き締めて、義人の股間に自分の股間をズイズイと押し付ける藤崎。
その行動に義人はギョッとして2人の股間が擦れるところ、自分の股をバッと見下ろした。
「佐藤くんが可愛くて勃っちゃった」
「いやいやいや、ご飯は!?ッあ、」
するりと細い腰に絡んだ腕。
履いているスウェットのズボンとパーカーの隙間から藤崎が手を差し入れ、ツツ、と左手の人差し指で腰のラインをなぞってくる。
「放せ!バカ!」
「やだ」
バンバンと胸を殴っているせいか「やだ」と言う声がやたらと震えて宇宙人の声真似のようになった。
赤面しながらキレる義人と違い、彼が見上げた先にいる男は相変わらず気に食わない完璧な笑顔でそちらを見下ろし、固く膨らんだ股間を擦り付けてくる。
「擦り付けんな変態か!!」
「佐藤くんの前だと変態かもなあ」
「いい加減にしろ!」
「無理」
「この馬鹿変態クソ野郎!!」
「口悪いなあ〜」
あっはっは、と笑っているが義人が小刻みに拳で藤崎の胸を殴るので全部宇宙人の物真似になっている。
ときたま離れようともがくのだが、一向に藤崎が身体を離す気配はなく、狭いキッチンの中で男子大学生2人は戦い続けるハメになった。
「暑苦しい!放せ!」
「毎晩こうして寝てんでしょ。何言ってんの」
「うるせー!」
「うーん、何しても可愛いね。今本当はちょっとムラムラしてない?」
「な、あっ!」
きゅ、とパーカーの上から右の乳首をつままれると、途端に義人は甘ったるい声を漏らす。
ビクッと跳ねた肩を見つめてから義人の俯いた顔を覗き込み、藤崎は顔を背けてくる義人の黒くて長い睫毛を眺めた。
「前にも言ったけど、そう言うの、可愛いだけだよ?」
急に抵抗をやめ、くにくにと服の上から遊ばれる乳首の刺激でフルフルと微かに義人が震えている。
いくら嫌がられたところで可愛いだけで、藤崎にとっては何もかも逆効果だった。
視線がまったく絡み合わないのも満足そうにニヤニヤと笑っている。
「藤崎、やめッ、、ろ」
「んー、気持ち良くない?」
「は?んっ、だから、そう言う事じゃなくて」
はあ、と熱い吐息を溢して切なそうな表情をした義人が藤崎を見上げた。
(本当にちんこにくる顔する人だなあ)
眉間に寄った浅いシワ、軽く噛まれた下唇が彼が今感じている快感を表しているようで扇情的だった。
黒い瞳は潤んで、先程とは違った意味合いで泣きそうになっているのが見える。
それら全てが藤崎の欲望を掻き立てていた。
(1年近くほぼ毎日抱いてるのに)
飽きる、なんて言葉は絶対に来ない。
頭に浮かんだ事すらなかった。
「義人、ちゅーは?」
「しないッ、甘えるな、!」
「して欲しいなあ」
「あっ、ぅ!」
いつの間にかシンクに寄り掛かる藤崎の股間に、義人の方がぐりぐりと自分のそこを擦り付けている。
「じゃあ俺からしていい?」
「これやめろ、早く!」
「やめないけど?」
ぷちゅ、と義人が吐き出した息を潰すように唇を塞ぎ、滑り込ませた舌で義人の舌を愛撫する。
始まった瞬間からずっと義人の腰が藤崎の動きひとつひとつに反応して揺れ、パーカーの中に侵入された左手に直接乳首をつままれると余計に大きく腰がびくついた。
「んんッ」
抵抗するくせに義人はこう言った事に雪崩れ込むときには従順だった。
「ん、ぁ、ンッ」
「っ、ん?もうやだ?」
「はあ、ん」
ぴたりと止めて舌を抜くと、苦しそうに息をしながら義人は藤崎に寄り掛かる。
2人して硬くなった脚の間のものを意識せざるを得なく、お互いのその熱を服越しに感じて悩ましい吐息を溢していた。
「こ、」
「え?」
「腰、が、、抜けた」
「、、わお」
ぐで、と、確かに全体重が藤崎に掛けられている。
それがまた愛しくて堪らなくなり、藤崎はクツクツと笑いながらギュ、と義人のまだまだ細い身体を抱き締めた。
「椅子持って来ようか?」
「い、いい。どっかに寄りかかってる」
「え?」
そう言いながら藤崎から離れて義人は流しのシンクの縁に手をついて自分の体を支えた。
(えっ、、これ無意識?)
ツン、と義人の尻がシンクから離れた藤崎の方に突き出されている。
無論、彼らからすると少し低く感じる日本の台所のシンクの高さに合わせた結果、義人は少し身をかがめているだけだ。
「佐藤くん」
「なに」
「誘ってる?」
「は!?っ、うわ!!」
流しに手をついて後ろを向いている義人のその少し突き出した尻めがけ、セックスしているときのそれのように腰を突き当てる。
「ば、バカか!?お前バカか!?」
きゅ、と掴んだ細い腰が逃げないように力を込めた。
「はいはい。バカで結構ですよ」
「待て待て待て!!」
腰を掴んでいた手を移動させる。後ろから義人に合わせるように腰を折って上からのし掛かり、右手を上に、左手を下に滑らせ、それぞれ服の中に侵入させた。
「おいッ!」
「んー、義人からちゅーしてくれないからなあ」
かぷ、と耳を甘噛みする。
ビクンと反応する腰。
「藤崎ッ!昨日ずっとしてたろ!今日はなし!!」
「え、勃ってるのに?」
「違うこれは!!」
「違うの?俺はすごい勃った」
「あ、やめ、やめろって、、」
右手はシャツの中に侵入して、突起を探し、見つけたそれをまたギュッとつまんだ。
「藤崎、っん、夕飯は?」
「あーとーで」
くにくにと揉まれつままれ、たまにピンとはじかれると義人の腰はまたピクピクと微かに刺激が走るたびに揺れる。
「ちょ、腹、あっ、減ってるのにっ」
「食欲と性欲じゃ、性欲が勝たない?」
「勝たない!!」
怒った声がキッチンに響いた。
「ッん、いっ」
抵抗はしたいのだがイマイチ腰に力が入らず、シンクを握っていないとまともに身体を支えられない。
はあ、と熱い息が漏れ、段々と体温が上昇していっている。
(ちんこ、痛い)
スウェットを押し上げているそこは、先程から直接藤崎に先端を触られていて微々たる刺激がもどかしくあった。
「ヤバい何か今アレっぽくない?」
「は?なに、アレって、ンッ、つうかやめろ」
亀頭の先端を藤崎の指にほじられ、思わず身体を捩る。勿論彼の腕から逃れられる訳もなく、またトン、と後ろから尻に股間を当てられた。
「あっ、!」
「人妻に手出してるみたいじゃない?奥さん米屋です〜って」
「え?何それ古くね?あッ!」
グリ、と胸の突起を押しつぶし、同時にパンツの中に入れた手が性器の裏筋、亀頭のすぐ下の辺りを少し強めに擦ってくる。
「ま、待って!頼むから、今は、ダメッ」
繰り返しそれをされるとガクガクと脚が震え始めた。
「待てない」
「藤崎!お願い、だから」
「聞けない」
「く、おんッ、久遠、ダメだって」
「今すぐ義人を抱きたいの」
「ッ、、」
耳に吐息をかけながらそう言えば、びりびりと反応して、義人が熱の籠った息を吐き腰を揺らす。
「久遠」
「乳首、気持ちいい?」
「ん、うるさ、い」
どうやらスイッチが入ったらしい義人は反抗的な視線でこちらを睨むと、前を向いてシンクに体重を預け、わざと尻を藤崎の股間に擦り付ける。
「入れたいの?」
「っん、あっ、はあっあっ」
義人の性器をしごきながら、右手で胸の突起をいじりまわす。
そうするとだんだん、小さい刺激でも腰が揺れるようになってきた。
「あ、だめ、だ、め」
「何が」
「そこ、あっ、はあっ」
裏スジに指を当てて、強く押しながら上下する。
手のひらで先端をこねるとビクッビクッと腰や肩が跳ねるのが見えた。
「イキそう?」
「あっ、あっあっ」
「ちゃんと言って。じゃないと分からない」
「あっ、くっ!」
裏筋を擦り、今度は亀頭を揉み、ゆっくりと親指と中指で作った輪っかで根本から先端まで全体をしごく。
途端に甘い声が上がって、汗の匂いがした。
「言って、義人」
「あ、あっ!んん、!」
ズ、とスウェットのズボンとボクサーパンツをずり下げると、義人の性器がぷるん、とまるごと外に出される。
「義人」
「あ、く、久遠、久遠!っ、あ!」
「なに?」
「イキ、そ、っあ、ひっ!」
「教えたよね?それで?何て言うんだっけ」
「あっ、ん、もう、だ、あっ!だめ、あっ!」
「義人」
この1年で義人が藤崎を知ったように、無論藤崎も義人の身体が反応するいいところを覚え、更には乳首も後ろも申し分ない程開発していた。
感じ方は段違いに良くなり、声はいやらしさを増して、義人は確実にセックスがうまくなった。
「久遠、くっ、くお、ん!」
「ん?」
肩越しにこちらを見上げる黒い目が情欲の色で染まっている。
「んっ、イキたい、、イって、いい?」
それは藤崎が義人に繰り返し言わせた言葉であり、念入りに覚えさせた甲斐あって義人のストッパーを外すような役割になっていた。
「いいよ」
満足してそう言い、激しく手を上下させる。
ビクビク動く腰は、違う快感が欲しいのか執拗に藤崎の股間に尻を押し付けて擦ってくる。
「あ、あたって、るっ!」
「あててんの自分でしょ?」
「あ、んんっ、だって、アッ!い、イク!」
「うん」
「あっ、ダメダメダメッ、久遠ッ、ああっ!う、はあ、んんんッ!!!」
びゅる、と欲が飛び、白いトロッとした液体がシンク下の戸棚の扉をゆっくり伝って床に落ちていく。
「はあっ、はあっ、はあ」
「大丈夫?」
後ろからぎゅ、と抱き締められ、脇の下に入った藤崎の腕に身体を思い切り起こされる。
久々にカウンターの先のソファが見えた気がした。
「んな、わけ、、」
そう言いながら、義人は素早く自分のパンツとズボンを引き上げてぐるんと抱き抱えられたまま藤崎の方へ方向転換する。
「ッはあ、はあ、、んな訳ねえだろこの万年発情期ッッ!」
バシッ!
「いってーー!!」
胸ぐらを掴まれ、グーではなくパーで藤崎の頭を殴り始める義人。
ちなみに手のひらの腹の部分でリズミカルに殴っている。
「あれ!?佐藤くん腰は!?」
「治った!!動ける!!」
「ええ!?」
まだふらふらしてはいた。
「場所考えろ!!」
自分の精液が飛び散ったキッチンを見る事もできず、赤面したまま激怒している義人は一方的に藤崎に暴力を振るい、その美しい顔さえも下から顎を掴んで左右にぶるぶると揺らしている。
「寝室ならいつでもヤっていいってこと?」
また藤崎はまったく反省をしておらず、余計に義人の怒りを煽っていった。
「去勢しろ!!人の身にもなれ!!」
「佐藤くんがして欲しそうだからしたんだって」
「黙れこのバカーッ!!」
「あ、ちょ!カツ落ちた!!床にカツ落ちた待って!!」
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