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第18話

帰宅すると、体調が悪いから、と家で休んでいたリクにUFOキャッチャーで取った、小さなぬいぐるみを渡した。 布団をかけて横たわっているリクに 「熱は?」 と聞くと、 「わからない」 と言うので、リョウが体温計を持ってきて、計らせた。 37.4度。微熱だった。 「風邪引いたっぽいな」 と、カズヤが風邪薬と水を渡した。 お粥は朝、カズヤが作っていた。 今日の料理当番はカズヤだったから。 僕達も必然と、朝はお粥と玉子焼き、昨夜のリョウが作り置きしていた、鶏肉と根野菜の煮付けだった。 「移したらいけないけど、どうしよう」 と心配しているので、 「心配しなくていいからゆっくり休んで」 と俺は声をかけた。 リクが風邪で体調不良なのもあり、カズヤもリョウもしばらくはスカウトには出ず、交代で受付することになった。 それから数日後のこと。 「いらっしゃいませー」 リョウの声に振り向くと、セイヤさんが店に来ていた。 またたくさんのビニール袋や紙袋を持って。 互いに目が合うとにっこり微笑んだ。 セイヤさんが歩みより、みんなに持っている袋を渡し、 「みんなで食べて。カイの分は取っておいてね」 と言い、僕の手を引いた。 温かい手のひらを握り返す。 そして、2人で部屋に入った。 「この間はなかなか屈辱だったよ」 とセイヤさん。 「年下に、なんて」 と続き、ヒヤヒヤして、セイヤさんの横顔を見た。 怒ってるっぽい表情。 なんて言おうから迷っていると、 「なーんてね、驚いた?」 とセイヤさんが俺を見ておどけるように笑った。 「ひどい!騙した!?」 「少しだけ、複雑な気分だったけど、怒ってはないよ」 あ...と俺はまた言葉を探した。 「な、なんなら、今日は俺が受けで」 と言うと 「別にいいよ、どっちでも」 と何処か遠い眼差し。 「セイヤさん...」 まだ亡くなった彼氏のことを忘れられていない気がした。 「ここって10代しか勤務できないんだよね」 と突然、セイヤさんが切り出した。 「ですね...若い子が売りだから...父さんが考えたみたいですけど」 「だよね...」 「どうしてですか」 聞いてすぐに 「いや、なんでもない笑」 「...無茶なことしても、彼氏さんは喜びませんよ」 「...」 「セイヤさんの幸せを願ってると思います」 「...なんでわかる?」 「なんとなく...」 「俺ですら、もうあいつの気持ちがわからないのに、会ったこともないカイがなぜわかる...?」 真剣な表情にしまった、と思った。 「ごめん。つい、大人気ないな...」 セイヤさんが瞼を擦った。 泣いてたのか、と、ようやく気がついた。 俺はちょっと待ってて、と、リビングに出た。 ガサガサとこの間、ラーメン食べに行った際、2つ取れた、小さなぬいぐるみを探し出し、部屋に戻った。 「これ...」 象の小さなぬいぐるみを手渡した。 「...また縁起がいいものを...」 と、泣きそうな顔でエイジさんが微笑んだ。 「タイではね、象は神様のように崇められてるんだよ、象は神の使いだとか」 「これ、こないだ、ラーメン食べ行った後にゲーセン、てので取れたんです、1つは風邪引いてた仲間に渡したんです」 「ラーメンかあ、仲間に同じぬいぐるみを?優しいね、カイは」 「いえ、偶然、取れたから、でも生まれて初めて、ラーメン食べたんですが、病みつきになりそうでヤバいです」 「生まれて初めて...?」 「はい、物心ついた時からこの部屋、というかこのマンションしか知りませんでした、だから、色んな物が新鮮で...あ!空も笑」 「空?」 「空が青くて、太陽は眩しくて」 俺はそこから機関銃のようにあの日のことを喋りまくってた。 セイヤさんは自分のことのように嬉しそうに微笑み、頷く。 「で、ですね、買った漫画が...!」 と、この時、ドアがノック...。 頭が真っ白になった。 セイヤさんには関係ない話を延々と...。 「す、すみません、こんなんじゃ...父さんに話してお金払い戻してもらいます!」 立ち上がると、手首を掴まれた。 「大丈夫、心配しないで、充分、楽しかったから。また今度、続き聞かせてくれる?」 真っ直ぐに見上げるセイヤさんの瞳。 しばらくそのままだった。 「はい...!」 僕も笑顔になった。

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