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第4話
だが、フランは俺を怖がらない。
フランの指先が、俺の古傷にそっと触れる。
「そんな傷なんか気にならないくらい、クライドのスッと伸びた鼻筋と、唇もすごく綺麗だから......」
輝くアクアマリンの瞳が汚らわしい俺を捕らえ、離さない。
その瞳は、いつだって俺を虜にする。
だが、俺はだめだ......。
俺はフランには相応しくない。
俺は小さく首を振り、フランと距離を置いた。
その瞬間、フランの表情が悲しみへと変化したように見えたのはおそらく俺の見間違いだろう。
俺が見間違いだとそう思ったのは、憂いを帯びた顔など、どこにも見当たらなかったからだ。
彼は大きな目を、よりいっそう大きく見開いていた。
何か楽しいことでも見つけたのだろう。
「そうだ! ね、ねねね、一緒に人間の世界を見にいこうよ。クライドなら人間に似ているし、怪しまれないでしょう?」
両の手のひらを合わせ、パチリと音を鳴らすフラン。
ああ、また突拍子もないことを……。
俺は二度目の深いため息をついた。
「なんでため息つくの? だって、人間の世界って見たこともない物がたくさんあるんだよ? すっごく気になるっ!!」
フランが好奇心旺盛なことを少しでも忘れていた自分が情けない。
人魚は16歳になると、成人とみなされ、外の世界に出ることを許される。
そうして人魚は、人間のことを知り、自分の身を守る術を学んでいくのだ。
だが、フランは......まだ早いように思う。
出会った者を警戒せず、信じてしまうところが危なっかしい。
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