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第8話
砂浜で細身の人間ふたりの間にいるのは、人魚だ。
そしてその人魚は、虹色の鱗に海藻のように美しい髪と、白い肌をしている。
彼に慕情を抱く俺が見間違うはずもない。
フランだ。
「こいつは珍しい。人魚だぜ?」
「いい金蔓 になりそうだ」
「やだっ、はなしてっ!! クライド、クライドッ!!」
両腕を人間に掴まれ、必死に抵抗を図るフランは、何度も俺の名を呼び、助けを求めていた。
彼の悲痛な叫びが俺の胸を打つ。
「フラン!!」
「クライド!!」
「おい、なんだお前は!! どこから来た!?」
突然海から姿を現した俺を見るなり、人間は警戒心をあらわにする。
懐からナイフを取り出した。
だが、俺はポセイドンの次に強力な魔力を持っている。
人間が作った刃物で脅せるはずがない。
相手と距離を保ちつつ、ゆっくりと近づいていく......。
対する人間は、俺が纏(まと)う雰囲気が自分たちとどこか違うのを無意識的に感じ取っているのか、フランを掴んだまま、後退する。
「痛い目にあいたくなければ、フランを離せ」
「痛い目? 丸腰の奴が何言ってるんだ? こんないい金蔓、誰が簡単に手離すかよ」
だが、やはり人間は愚か者だ。
俺のことを何ひとつ知らない人間は、フランの顔の横に鋭く尖ったナイフの切っ先をちらつかせる。
それが、俺をどれほど怒らせるのかを知らない無知な人間は、勝ち誇った気分でいるらしい。
にやにやと薄気味悪い表情で俺を見ている。
「そうか、残念だ」
俺は右の手を胸の辺りまで持ち上げると、指をひとつ、鳴らした。
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