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第6話

                   * 「あいつのメンタルって、いったいどうなっているんだ?」  夕暮れの保健室で、ひとり乗り残されてしまった大智は、呆気に取られていた。  さっきまで大きな鏡のまえで跳ねたり伸びたりと、可愛く見えるポーズを研究していた潤太は、たったいま翻したスカートからちらっとパンツを覗かせて、保健室を飛びだしていった。 「はぁ……。あんなカッコの男に告白されるってどうなんだ?」  大智は似合っているかどうか確かめてほしいと、潤太が鏡をまえにくるくるまわる姿を、さんざん見させられた。ちなみに、その間もパンツはずっとちらちら見えまくりだ。 (阿保か、あいつは。阿保だろ?)  潤太は陸上部内で、やたらと先輩たちに可愛がられていた。大智は、あくまでも懐いてくる後輩のひとりとして、潤太のことを「かわいい」と思うことはあったが、果たしてほかのメンバーがどうだったかと云うと、怪しいものだ。  くりっとした瞳にふっくらした頬のラインをもった、乙女めいた顔をしている潤太は、どこかしら年長者の気を惹き、世話を焼いてもらえるような言動や仕草をとる。本人に自覚はないようだが、いかがなもんか。つねに大智はそう思っていた。  よもやあの元生徒会長、――俊明が女装した潤太の告白に「イエス」と頷くことがあるのだろか。  俊明のまえに立った潤太が後ろで両手を握り、スカートの裾を揺らしながらもじもじする姿を想像してみる。大智の想像のなかの彼は、恥じらいに頬を染め俯いていた。とたんに自分にもとんだ乙女思考があったようだと、大智はげんなりする。 (まぁ、スカートはなかなか、似合っていたかな……)  あれなら、本当にいけるかもしれない、そう考えて大智は愕然とした。 「――はぁっ⁉」 (俺はいまいったいなにを考えた⁉ 俺はアイツらとは絶対に違うぞ!)  鼻の下を伸ばして潤太を甘やかしていた、部の同級生や先輩たちを思い出した大智は、首をぶんぶん横に振る。  するとベッドに散らばったままの潤太の制服と、トレーニングウェアが目に入った。 「って、おいっ。あいつ、これどうする気だよ?」  壁の時計を確認すると、まもなく昇降口の施錠時間だ。ここにもそろそろ巡回の職員が鍵をかけにやってくるだろう。  大智は潤太の脱ぎ散らかした衣類をまとめて抱えると、転がっていた彼の鞄を拾い上げた。それから保健室を出た大智は、どこへいってしまったのかわからない後輩を探すために、暫く校舎のあちこちをうろうろするハメになった。

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