10 / 27

第10話

                  *  とりあえずは氷のように冷たくなっていた潤太に、預かっていた彼のコートを着せてマフラーを首に巻きつけてやる。そして丸見えの膝には自分のコートを脱いでかけてやった。 (十二月の寒い夜に、俺はなんでこんなところで男子高生(だんしこうせい)といい雰囲気になっているんだ……) 「そういえば、最近、第一校舎の角んところにある公園に、変質者がでるって噂になってたな」  大智は胸に縋りついて、うぇんうぇん泣いている潤太の背中を撫でてやりながら、ふと思いだしたことを口にした。 「うぅうっ。なんでもっと早く教えてくれないのぉ。先輩のいじわるぅ、うぅうっ」 「意地悪って……」 (ひどいやつだな、こいつ)  やさしくしてやってれば、()に乗りやがって。そもそも潤太がその公園に出かけるだなんて、自分はひとことも聞いていない。  第一校舎の角の教室は、どの学年でもG組の教室にあたる。その教室の真下が変質者がでるといって噂になっている公園だ。その変質者は自分のナニを見せるのが好きだそうで、日中公園からG組の教室に向かってナニを曝しているらしい。  第一校舎は角の教室にだけ特別にベランダがついているので、放課になるとよそのクラスの生徒までもが、その変質者を見物するためにG組のベランダに集まっているという。生徒たちのいい暇つぶしになっていた。 「いや、けっこう有名な話みたいだぞ? 一年でもG組のやつらが云ってなかったか?」 「そんなの知らないよぉ……、うぅぅ、ひっく、ぐずっ……」  そんな危険なところへ、夜にミニ丈にしたスカート姿で行くだなんて、こいつは馬鹿としか云いようがない。  はあぁっ。  大智は大きな溜息をついた。 「お前、ほんっと鈍くさいし、早とちりだし、危なっかしいよな。仕方ないから、お前のその――、斯波への告白ごっこ? 俺もつきあってやるよ」 「えっ、ホント……?」  その言葉に、ぴょこんと潤太が顔をあげる、彼の長いまつ毛のさきに涙の雫がついていて、それを舐めたいと思ってしまった大智は焦った。    「あ、あ、あぁ。――お前は部活の後輩だからな!」  「やったー‼ 大智先輩、だから好きっ!」 「うわっ」    よろこんだ潤太が胸のなかからさらに飛びついてくると、大智はその勢いで彼を抱えたままひっくり返る。  ガンッ‼  硬いタイルに強かに頭をぶつけた拍子に、大智の目から星が飛んだ。

ともだちにシェアしよう!