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第11話

                  *  それからひと月たったころ、大智は潤太に呼び出されて久しぶりの保健室にやってきた。養護教諭は不在らしく、かわりに教員用のイスにはさきに来ていた潤太が偉そうに座っている。 「ラブレター作戦、失敗」  潤太はそう云うと、パーの形にして突き出した手のひらから、親指を折った。 「可愛い下級生に待ちぶせられてドキッとする作戦! これも失敗」  そして今度は人差し指を折る。 「って云うか、俺が公園に移動した時点で失敗だったんだよ、あの作戦は。だってあれじゃ俺が見つけた先輩を追いかけることになるんだもん。だったら『偶然後輩と帰りが一緒になったときに告白されてしまった、作戦!』になっちゃうじゃないかっ」  憤慨した潤太は腰に手をあて、すっくと立ちあがった。 「なに云ってんだ?」  そんなことに真剣な報告がいるのかと、大智は噴きだした。 「かくなる上は、身を(てい)して……」  握った拳を掲げた潤太に、大智は冷たい視線を送ってやる。 「お前、すでに挺しただろうが。先月のこともう忘れたのかよ? 怖い思いしたんだろ? 怪我はもう全部治ったのか?」 「うん!」  あの翌日、オデコと頬に絆創膏やコットンをくっつけて登校した潤太は「こんな顔じゃあ、先輩に告白なんてできないよっ」と怒りだした。  それで潤太の身体のあちこちにある絆創膏が全部取れて、青タンが消えるまでのあいだは告白作戦はやめておくことになったのだ。 「あんなこと怪我が治れば忘れちゃうよ。ほら、見て?」  いきなりぐいっと顔を寄せてきた潤太が、唇の端をちょんと(つつ)いた。触れた指先で、彼の唇が僅かに(たわ)むのを見て、大智はごくりと唾を飲みこむ。 「ね、きれいになったでしょ?」    きれいになったどころじゃない。なんでお前の唇は、そんなにぷるっとしてるんだ? 思わずキスしそうになった大智は、すんでで我に返ると目を泳がせた。 (こいつ、やばいって。男のクセに、なんでこんなにかわいいんだ⁉)  彼がこの調子で押し続けたら、誰でも彼に落ちるんではないかと大智は思った。今回潤太の恋の相手は男だったが、それでも、もしかしたらもしかするかもしれない。 「天気よし! 体調万全! それでは当たって合体作戦! 実行開始っ」 「はっ⁉ って、えっ?」 (おいおいおい、なんだ、それは⁉)  潤太の口からとびだした合体と云う言葉に、大智は目をむいた。 「いってぇきまぁーす!」  云ったときには、彼はもう保健室の扉の外だ。大智は口をあんぐりと開けた。いったい俺はなんのためにここに呼ばれたんだ? いや、それよりも――。 「合体って、吉野っ! お前いったい、なにする気だっ⁉」  聞き捨てならない単語に慌てた大智は、潤太を追いかけるべく保健室を飛びだした。

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