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第14話

通学の途中あちこちでジングルベルを耳にするようになった十二月。潤太は期末テストで忙しくなるまえにと、クリスマスの準備をはじめた。  仲のいい友だちや両親そして兄への贈り物は、先週末のうちに買って自分の部屋に隠してある。そして二週目の日曜日の今日、潤太は恋しい先輩へのスペシャルなプレゼントを探しに、ディスカウントショップにやってきていた。  たくさんの客で賑わう店内をかきわけるようにして、お目当ての商品のレジを終えた潤太が店内をでると、外はすっかり暗くなっていた。 (喜んでもらえるといいなぁ……)  右手に下げた紙袋を見て、にまにま笑う。  足早に駅へと歩きだした潤太は、流れるクリスマスソングが遠のくなか、これを渡したときに俊明がどんな顔をするだろうかと、想像した。  なにも愛の告白をするのに彼の誕生日や、バレンタインデーを待つ必要なんてないのだ。クリスマスだっていいチャンスではないか。 (名づけて、クリスマスプレゼントだいさくせーん。むふふふふ)  試験期間が終わったら、彼にこのクリスマスプレゼントを渡すのだ。  終業式が二十四日なので、それまでに渡さなければならない。告白がうまくいけば、イブも、そして翌日のクリスマスも彼と過ごせることになる。テスト期間が終わるのが楽しみだ。 (善は急げだ、テストが終わったらすぐに斯波先輩に会わないと) 「帰ったら大智先輩に連絡しーようっと」  俊明の予定が知りたいときは、潤太はいつも大智に訊いている。手にした大きな紙袋を持ちなおした潤太は、頭に浮かんだ大智の顔にふと足をとめた。 「あー……と、どうしよっかな……」  彼にも、なにか買って行くべきだろうか。潤太は「むむっ」と、唇を突きだして首を(ひね)った。  大智は潤太が所属する陸上部の先輩だ。潤太が部に入部したのが今年の四月で、大智が部を止めたのが夏休み直前。だから部活動で彼と一緒だったのは、たったの四か月程度のことだった。しかもそのときは今のように彼とは親しくはなかった。  それこそ潤太が俊明に書いたラブレターを間違った下駄箱に入れていたことで、大智に声を掛けられたのがきっかけだ。そこから告白作戦を手伝ってもらうことになって、つきあいができた。  大智は約束をちゃんと守ってくれていて、潤太の恋の話を聞いたり、アドバイスをしてくれたりしている。そして大智のくれる情報を頼りに、潤太は偶然を装って俊明と会ったりもできていた。そうでなければ潤太の通うあの中高一貫マンモス学園のなかで、学年の違う、そしていまやなんの接点もない俊明と簡単に会うことなんてできはしない。 (うーん。いつものお礼ってことで、大智先輩にもなんか用意しようかな?)  今から店に引き返しても、閉店までには充分時間がある。さて、どうしようか。 「大智先輩って俺のことバカバカ云うわりには、ちゃんと相手してくれるし。けっこう俺のこと好きなんじゃん?」 (クリスマスのプレゼント――、渡したら喜ぶかな?)  首を傾げつつその光景を想像してみると、浮かんだ大智の笑顔に潤太の心臓がトクンと鳴った。 「な、なに⁉」  まただ。彼のことを考えて、にわかにドキドキと脈打ちはじめた胸の鼓動に、これじゃあまるで自分が大智に恋しているみたいではないか、と潤太は狼狽えた。 (いや。それは、ナイナイナイ)  一瞬思い出しかけた、彼に保健室に連れていかれた日のことも、首をぶんぶん横に振って霧散させる。 (……さ、さっさと家に帰って、明日に備えようか)  頬が擽ったい気がするのも、顔に血が上るのも、さっきまでいた店内が暑かったせいだ。荷物を握りしめ、駅に向かう潤太は、頬に当たる風をひときわ冷たく感じながら走った。  このときはまだ、潤太は気づいていない。いつもだったら気軽に買ってしまう友だちへの贈り物を、大智にだけは渋ってしまった理由を。でもそれは彼のことを、潤太が特別に意識していたからに他ならない。

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