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第15話

                 *  そしてやってきた十二月の二十三日の四限目の終わり。  綿密に立てたはずの潤太の告白イベント『クリスマスプレゼント大作戦!』は、あっけなく失敗におわった。  せっかく顔の傷もきれいに治り、テストも終わって意気揚々と俊明のもとに(のぞ)んだというのに、潤太が作戦の必須アイテムであるクリスマスプレゼントを持っていくのを忘れたからだ。  しかも俊明にプレゼントを渡すまで、自分が手ぶらであることに気づていなかったという、おっちょこちょいぶりだった。いつもいつも作戦と下準備は完ぺきなのに、肝心なところで大きなミスを犯してしまう。 (はぁ、がっかりだ)  俊明と別れたあと、なくなったプレゼントの行方を考えた潤太が思い当たったのは、その直前の放課に大智と行った屋上だった。  三限と四限のあいだのたった十分の放課に、斯波先輩にクリスマスプレゼントを渡したい、面と向かって告白するんだと云って、潤太は大きな紙袋を片手に、大智を屋上に引っ張ってきていた。  彼に俊明の予定を調べてもらい、四限目に俊明のクラスが視聴覚室を使うという情報を得ると、潤太は「放課に入るまえに待ち伏せる!」と息巻いて、屋上を飛びだしていた。きっとそのときに屋上にプレゼントの入った紙袋を置いてきたのだろう。 「あれ? 鍵がかかってる」  屋上に続く扉の前にくると、潤太はさっき来たときにはかかっていなかったダイヤル錠を見つけた。おそらく生徒が屋上に出ないように、巡回のものが施錠していったのだろう。潤太は数字を合わせて錠を外すと、屋上にでた。 「……お前、今頃か……?」 「うわっ⁉」  足もとでした低い唸り声と、人影に潤太は飛び上がった。見ると扉の横に座り込んでいたのは大智だ。 「びっくりした!」  どきどきする胸を押さえながら、潤太は首を傾げる。 「あれ? 先輩なんでこんなことろにいるの?」 「お前は俺を殺す気か?」  大智は潤太の忘れた紙袋をぬっと差し出して、これを持って校舎の中に入ろうとしたときには、すでに扉はびくともしなかったと教えてくれた。潤太とたった数秒の差で、大智は十二月の屋外にコートもなしで一時間も放り出されていたのだ。 「か、かわいそう……」 「ばっかっ! お前ホント馬鹿だよ。コレ忘れていっちゃ意味ないだろうが」 「そんなに云わなくてもいいじゃないですかっ」 「で、どうなったんだよ? ちゃんと告白できたのか?」 「ううん。プレゼントを渡してから告白って作戦なんだから、また後でって云って帰ってきたよ」 「なんのために、四限サボってまで視聴覚室のまえで待ち伏せしてたんだよ。俺までつきあわせて」  大智が怒るのも無理はない。 「はっくしょん!」  大智が大きなくしゃみをした。 「でも、先輩よかったね。俺がコレとりに帰って来たから助かったんだよ? 下手したら先輩、ここで冬休みを過ごすはめにっ、いたっいたいーっ」 「お前、全然反省してないなっ」 「ぎゃーっ、ごめんなさいいっ」  潤太は抓られた頬を(さす)りながら、「はいはい、寒かったよね」と、ちゃっかり自分だけ羽織っていたコートのまえを広げて、頭一つ分背の高い大智を正面から包みこんだ。  このなかならぽかぽかだろう。 「……お前、なにやってんだよ」 「なにって、冷たくなった先輩を温めてあげてるんだよ?」 「…………潤太、お前、やっぱり、ちょっと阿保だな」 「もぅ。じゃあ、保健室に移動しよ? あそこならきっと暖かいから」  ホームルームの終わった教室は、すでにエアコンが切られて冷たくなっているはずだ。潤太はいつでも帰宅のできる格好で教室を出てきていた。  いまから大智の教室に一緒に行って彼の荷物を持って、あの暖かい部屋に向かえばいい。そうすればこの冷たくなった大智の身体もすぐに温まるだろう。 「……そうだな。でも、寒いからもうちょっとこのまま」  しかし大智が潤太の首根っこに額を擦りつけながらそう呟くので、潤太はじゃあ、まぁ少しだけ、と暫くはじっとしていることにした。

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