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(09) 美雪 4 愛しのご主人様

美雪はご機嫌だった。 念願の拓海のペニスにありつけたからだ。 どさくさに紛れてフェラを始めたのだが、拓海はそれを無言で許した。 ぴっちゃ、ぴっちゃ……ちゅっぱ、ちゅちゅちゅ……。 いやらしい音を立てて舐めたり吸ったりキスしたり。 望みのままに、愛おしいペニスを愛撫する。 拓海は、そんな美雪の頭を優しく撫でながら、先ほど美雪から聞いた話を反芻した。 「なるほどな……『検査』というのは、健康チェックの事か……しかし、無理矢理連れてこられた男の子達は暴れたりしないのか?」 舌を伸ばして、うねうね触手のようにカリに絡ませていた美雪は、つーっと涎を伸ばして口を放した。 「はぁ、はぁ……はい、どの子も大人しく、従順で……ただ虚ろな目をしていました……はむっ。ちゅっぱ……」 「ふむ……そっか……」 拓海は考え込んだ。 しばらくして、別の質問をする。 「……で、次に運ばれる先は『集荷場』というわけか……お前は『集荷場』の場所は知っているのか?」 「はい。しかし、その後何処に連れて行かれるのかは、私も知らされていません……ちゅ、ちゅっ………」 「そうか……」 美雪は、拓海の問いに答える以外はフェラをし続ける。 添えた両手は、片時も放したくない。 そんな執着心さえ感じさせる。 夢中になっていたフェラを続けていた美雪だったが、ふと何かを思い付いたように顔を上げた。 そして、拓海に質問を投げかけた。 「あの、拓海様。私はこれから一体どうなるのでしょう?」 「ん? 何がだ?」 「警察に通報されるのでしょうか?」 「いや、特には」 美雪は、驚いて聞き返す。 「どうしてですか? 私は人身売買の組織だと知って加担していたんです。罪がなくなるとは到底思えません」 「ふむ」 美雪は尚も興奮して言い張る。 「一度手を染めたしまった私は、恐ろしくなりました。医者という地位を失いたくなかった。保身に走ったのです。すぐに警察に行くべきだったのに……」 目を閉じて後悔の念を現す美雪。 拓海は美雪にある指摘をした。 「何か、警察にでも捕まりたいと言っているように聞こえるが」 「そ、それは……そんな事は……」 美雪は、拓海の意外な一言で口ごもった。 そんな美雪を冷静に観察する拓海。 「……まぁいい。ところでお前の話を聞いて腑に落ちた事がある」 拓海は、腕組みをしながら言った。 その真意をついた言葉は意外にもさらっと口からこぼれた。 「お前は、警察に行こうと思えばいつでも行けたはず。しかし、敢えて行かなかった……その理由は……組織の内部から、自分なりに解決できないかあがいていたのではないか?」 「え!?」 美雪は、拓海の思いがけない言葉に硬直した。 拓海は続ける。 「なぁ、美雪。お前は、その男の子達を何とか救って上げられないか考えていた。ちがうか?」 「そ、そんなことは……わ、私は、恐ろしくなって、加担したわけで……」 美雪は、しどろもどろになった。 「生きる希望を失った可哀そうな子……」 拓海は、宙を眺めながら続ける。 「親に疎まれた、(しいた)げられた、乱暴を受けた。そんな子もいたのだろう。お前は、優しい親に拾われたと言った。そして、医療に身をささげた父親を尊敬し、自分もそうなりたかったとも語った。そんなお前だからこそ、何かできないか、ずっと、ずっと、考えていた。それもたった一人でだ」 拓海はそこまで言うと、真っすぐに美雪の目を見つめ、両手を握った。 「すごいな、美雪。お前は……ド変態を通り越して……ただの勇者だな」 驚きで言葉を失う。 何気ない拓海のその言葉は、美雪の胸に突き刺さった。 「ゆ、勇者……わ、私が……」 拓海は、頷きながらにっこり笑った。 あのパッと花が咲くような眩しい笑顔。 美雪の目には、それが人知を超えた存在のように見えていた。 (す、すべてを見透かされていた……) **** ずっと救おうと懸命だった。 可愛そうな男の子達。 『検査』の時間の中で許される限り必死にカウンセリングを続けた。 でも、何も解決できなかった。 なんという無力な自分。 自分は、尊敬するお父さんのようになれないと、絶望に打ちひしがれた。 それを拓海は、勇者と比喩したのだ。 美雪は目を閉じて涙が出るのを必死でこらえた。 そんな美雪の頭を拓海はそっと撫でた。 美雪が、あの配信を始めるようになったのはその虚無感からなのだろう。 誰でもいいから慰めてほしい、認めてほしい。そんな救いを求めて……。 拓海は、美雪の肩を優しく抱き寄せて言った。 「美雪、お前が医者の地位の固執したっていうのも、親父さんの願いを無にしたくなかったからなのだろう……それに親父さんの頃からの常連達も放っておけなかった。患者達の話を聞いた時、それが分かったよ。やさしいな。お前は」 (……この人は何て人なんだ……私を認めてくれる。理解してくれている……こんな私でも価値があると思わせてくれる……) 美雪は悦びを噛み締める。 しかし、美雪が今望む答えは違うのだ。 こんな生活はもう終わりにしたい。 行き詰ったこの現状から救ってほしい。 そう願っているのだ。 だから、美雪が欲しているのは、優しい言葉でも、褒めたたえてくれる言葉でも、慰めてくれる言葉でもない。 美雪は、気力を込めて叫んだ。   「どうして! どうして、貴方は私を責めないのですか! こんな悪事に加担した私を!」 拓海は、優しい表情で言った。 「俺はお前を決して責めない。だって、十分に自分で自分を責めたんじゃないのか?」 (ああ、なんて事だ……この人は何でも知っているんだ……) 美雪は、拓海の胸に顔を付けた。 溢れる涙を悟られないように……。 しかし、我慢しようにも溢れてきて止まらない。 涙が止めどなく流れ続ける。 「うっ……ううう、うう……」 美雪は声を押し殺して泣いた。 拓海はそんな美雪の背中をポンポンと叩いた。 それは、母親が赤子をなだめるよう。 「大丈夫だよ。心配しなくて……」 美雪は泣くのを止め、拓海の顔を見上げた。 拓海は小首を傾げて微笑む。 「この事件、後は俺がすべて解決してやる。頑張ったな、美雪!」 『頑張ったな、美雪!』 その言葉が美雪の中でこだまする。 一瞬、拓海の顔が父の顔に重なった。 (褒められた……私は……お父さん……うぅ、ううう……) 美雪はそのまま子供のように泣き崩れた。 **** 美雪は、拓海の胸の中に居た。 拓海は拒むことなく、美雪を優しく抱いた。 この上ない安心感に包まれる。 美雪は呟いた。 「拓海様、貴方はとても不思議な人だ。私は貴方を一目見たときから、何故か無性に惹かれた。それは、きっと、貴方が自分を救ってくる人だと感じたからだと思うのです……」 美雪は顔を上げた。 そして、拓海に顔を近づけて言った。 「私は、拓海様、貴方のことが好きです。一生、貴方にお仕えさせてください」 スッと爽やかな風が吹いた、ように感じた。 そしてそれは、美雪の苦悩をすべてさらっていく……。 拓海は、穏やかな表情で美雪を見つめる。 拓海が口を開こうとした瞬間、美雪はハッとして言った。 「わ、私は何てご無礼な事を……申し訳ありません!」 足元を見てつぶやく。 「私は見ての通りの変態です。……分かっているんです。でももう変われない。元には戻れない……だから、ただそれだけを伝えたかったのです……」 美雪は何故か恥ずかしくて顔が真っ赤になった。 拓海は、そんな美雪の両脇を掴みガバッと持ち上げると、自分の膝の上に跨がせた。 それは対面座位の体勢。 美雪は唖然としていた。 どうして? そんな困惑した表情。 拓海はそのまま美雪を抱き抱えながら背中に腕を回し、お尻の割れ目に指を入れた。 それは、何の前ぶりもなく突然強引に……。 「うっ……はぁうっ……」 抗えない刺激に、背筋をしならせる美雪。 拓海は、美雪のアナルを弄りながら言った。   「何を言ってやがる。何故変わる必要があるんだ?」 「で、ですが……こんな変態ですので……うっ、はぁうっ」 「美雪、お前はそのままでいい……」 美雪のアナルの中の気持ちいいところは、拓海にはすでに知られている。 とろとろになった前立腺。 それに奥の気持ちのいい所。 美雪は、ふわふわする感覚を味わいながら、拓海の言葉を夢心地に聞いていた。 「それに俺はお前みたいなド変態、意外と好きだぜ」 「えっ!?」 美雪は驚いて声を上げた。 と、同時に一気にフル勃起。 固くなった美雪のペニス先は、つんつんと拓海の腹部に当たった。 拓海は、笑いながら言った。 「おいおい、なんでこんなにおっ勃てているんだ?」 「だ、だって……拓海様、こんなド変態な私でも好きだって……」 美雪は、嬉しいやら、恥ずかしいやらで、耳まで真っ赤になった。 自然と笑みがこぼれ、目を潤ませながらキラキラとさせた。 それは夢見る少年のような純粋無垢な表情。 拓海はそんな美雪を愛おしく思ったのか、美雪の唇にチュッと軽く唇を合わせた。 「……ったく、ペットのくせに生意気だな……自分の勃起を俺のせいにしやがって。ふふふ……これは罰がいるな」 「ば、罰……」 美雪は、拓海の顔を恐る恐る覗き見た。 拓海の目が光る。 「……よし、そこの壁に手をつきな。バックから徹底的に犯しながら、この変態チンポを壁で押し潰してやる……ふふふ、さぁ、お仕置きの時間だ!」 「お、お仕置きだなんて……ご、ご褒美、ありがとうございます! 拓海様!」 美雪の目は、嬉し涙で曇っていた。 **** 最近のクリニックは以前にもまして患者が増えた。 どうやら、ある日をきっかけに、院長の診察が優しくて癒される、との噂が飛び交いはじめ、それが原因ではないか? というのが、看護師達の見解だった。 その日も待合室はごった返し、クリニックはてんやわんやの忙しさ。 そんな中で、クリニックのスタッフ達は別の意味で緊張していた。 ピリピリとした重い空気。 一人のスタッフが恐る恐る美雪の診察室に入っていく。 「どうかしましたか?」 それに気が付いた美雪は丁寧な口調で言った。 スタッフは、汗をびっしょりかきながら、深々と頭を下げた。 「申し訳ありません、院長! これ、今日ご予約の患者さんの検査結果です。ギリギリになってしまって、申し訳ありませんでした!」 診察の直前である。 以前の美雪なら、その几帳面さゆえに憤慨し、相当なお叱りを受けることになっただろう。 その覚悟で来たのだが、その日の美雪は、意外にも笑顔で迎えた。 「ああ、いいよ。ありがとう。急がせて悪かったね」 「そ、そんな事は……し、失礼します!」 スタッフは、何度もお辞儀をしながら診察室を後にした。 別のスタッフ達がそのスタッフに近寄ってハイタッチする。 皆、笑顔が溢れる。 彼らは囁き合う。 「最近の院長って、柔らかくなったって思いません?」 「本当に! どうしたのかしら……でも、すごく素敵な微笑み!」 「ええ、ますますカッコよくなって……ああ、憧れの院長!!」 別の所でも、美雪の噂が飛び交う。 「ところで、最近院長が首にしてるチョーカーってオシャレじゃない?」 「そうそう、あたしもずっとそれを思っていたのよ。とても似合っているって」 「もしかして、恋人からのプレゼントだったりして?」 「まさかぁ! 院長に釣り合う人なんてそう簡単にいるわけないわよ!」 「それもそうね……」 そんな噂をされてるとは露知らずの美雪は、診察室で次の患者のレントゲン写真を眺めていた。 そして、そっと、首に巻いたチョーカーに触れる。 それは拓海に付けてもらった特製チョーカー。 「ふふっ……」 美雪はつい嬉しくて微笑んでしまう。 (拓海様、ああ愛しの拓海様……早く会いたいです……拓海様……) 宙を見つめ、目を輝かせるその姿は、まさに主人の帰りを待つ忠犬。 つまるところそれは、幸せの絶頂で恋する男、そのものの姿だった。

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