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(11) 夏樹 2 揺れる想い

夏樹は、メインストリートを小走りで進んでいた。 その足取りは軽い。 向かうは、例の組織『双頭の蛇』の拠点の一つ『集荷場』と目されるラブホテル前。 そこにはある人物がいる。 夏樹は、街灯の下でその人物を発見し、元気よく声を掛けた。 「よう、拓海! 調子はどうだ?」 「おう、夏樹か……そうだな、進展無しってとこだな」 「……そっか」 夏樹は、気が付けば、一日と欠かさず拓海の様子を見に行っていた。 そして、拓海が居ないときは、変わって張り込みを手伝いもする。 そんな風に二人三脚で張り込みを続け、かれこれ二週間が過ぎていた。 張り込みと言っても、例の組織に警戒されている訳でもなく、緊迫した雰囲気はない。 だから、いつの間にか、デートの待ち合わせでもしているかのような錯覚に陥った。 それほどまでに二人は打ち解け合い、友達か、それよりちょっと先の関係になっていた。 拓海は、腕を高く伸ばし首をコキコキと鳴らした。 「なぁ、夏樹。メシいこうぜ。今日は早番で上がりなんだろ?」 「ちょ、ちょっと待てまだ仕事が……」 断りかけた夏樹の手を、拓海は強引に握って引っ張った。 「いいから! 見回りついでだ!」 「……って、相変わらずだな。お前は」 とはいえ、夏樹はもともとそのつもりでここに来たのだ。 だから、手を握られるのは期待通りだし、むしろそろそろ腕を組んでもいいとさえ思っていた。 **** 「しかし、ここのサンドイッチは、うまいよな……」 拓海は、ほっぺを膨らませながら、口をもぐもぐさせた。 そんな、拓海の姿に胸キュンな夏樹であったが、悟られずに答えた。 「たしかにな……そういえば、ここのアネさんは元有名ホテルのシェフだったかな」 指をさした先には、元男性の美しい女性従業員が立っていた。 「ああ、なるほどな。だからか……」 拓海は指についた油をペロっと舐めた。 そして、ところでさ、と話は続いていく……。 話す内容は取り留めもない事ばかり。 でも、夏樹は楽しくて楽しくて仕方ない。 「ほら、拓海。ほっぺにケチャップが付いてるぞ。取ってやるから、じっとしてろよ……」 「おお、悪いな……」 「ったく、お子様か。お前は」 「ははは、面目ない……」 少年のように照れ笑いをする拓海。 夏樹はそんな拓海を見て思う。 拓海ってやつは、本当に不思議なやつだ。と。 合気道の達人かと思えば、心やさしい聖人君主。 そして、今、夏樹に見せている姿は、無垢な少年。 しかし、どれをとっても拓海なのだ。 「おい、何を見ているんだよ。夏樹」 「え?」 夏樹は、ぼうっと拓海を見つめていたことに気が付いて、サッと顔を逸らした。 「なんでもねぇよ……」 「おかしな奴だな……」 夏樹はそのまま、窓ガラスに映る自分達を眺めた。 はたから見れば、これは紛れもないデート。 そして、愛する恋人同士。 「愛する……か」 「なんだ、なんだ? 今日の夏樹は少し変だぞ?」 拓海は、夏樹の顔を覗き込んで言った。 そして、心配そうに、夏樹の手の甲に手をそっと重ねた。 拓海の温かさが伝わる。 ふと夏樹は拓海に尋ねた。 「なぁ、拓海。お前ってさ、オレの事、強いと思うか?」 「ん? なんだよ突然……まぁ、強いかといえば、強いな……」 拓海は突然の夏樹の質問に首を傾げた。 何を意図しているのかわからない。そんな顔だ。 夏樹は、構わずに続けて質問する。 「じゃあさ、怖いと思うか?」 「へ? 何を?」 「オレの事を」 夏樹はそう言ってから、緊張で汗が吹き出してきた。 答えを聞くのが怖い。 頭の中で別の自分が問いかけてくる。 『今さら、後戻り出来ると思うのか? 夏樹。お前は、愛より強さを取ったのだろう?』 はっ……。 目の前の拓海は、うーん、と考え込んだ顔をしている。 夏樹は、慌てて言った。 「ああ、なんでもない。拓海、答えないでいい。忘れてくれ……」 (なんでもないんだ……そう、決めたことだ。いまさら……) 夏樹は思い出していた。 そう夏樹が、愛を捨てて強さを取ることを決めた、あの初恋の事を……。 **** 人は自分にない物を持っている人に憧れる。 それは、夏樹にも当てはまる事だった。 夏樹が恋したのは、高校生の時。 当時、夏樹は、クラスで一番のモテ男だった。 勉強はからっきしだったが、柔道はめっぽう強く、正義感があって男らしい。 一方で、普段から良く笑い、それが小動物のように可愛いものだから、そのギャップに女子達のハートはメロメロになった。 しかし、当の夏樹は女子には全く興味を示さず、部活に明け暮れていた。 そんな、夏樹だったが、ある日、部活帰りの渡り廊下である男子生徒に出会う。 その人物は、本を片手に読書しながら歩いていたのだが、ふざけていた夏樹とぶつかってしまったのだ。 「す、すみません!」 夏樹は、落とした本をすぐに拾い上げ謝った。 「いいよ……」 目が合った。 その瞬間に、夏樹は胸がキューンとなり、その人の目から目を離せなくなっていた。 再び本を開いて歩き出す男子生徒。 その背中を見送りながら、夏樹は呟いた。 「な、なんだろう……この胸のドキドキは……」 それは夏樹はにとって初めての感情。 後日、その男子生徒は1年上の先輩である事が分かった。 体型は、痩せ型で長身。 顔は色白で、切れ長の一重まぶたに、高い鼻、そして眼鏡という、優等生タイプのイケメン。 その先輩は、決まって昼休みに中庭で一人読書をする。 夏樹は、たびたびその姿を覗き見しては、胸を熱くさせた。 しかし、この時の夏樹は、これが恋とは気付いていなかった。 それがある日の事。 その先輩が、校内でも悪名高い不良グループに虐められている現場を目撃してしまったのだ。 先輩は、暴行された後、服をすべて脱がされ裸にさせられていた。 先輩は、涙ひとつ流さずに、その屈辱を甘んじて受け、必死に堪えている。 その姿を陰から見ていた夏樹は、その悔しさに唇を噛み締め、先輩の代わりに涙を流した。 後日、夏樹は、密かにその不良グループのメンバーを一人づつ襲っていった。 当時、既に柔道では黒帯で敵なしの腕前だった夏樹は、不良とはいえ同じ高校生相手に遅れを取ることは無かった。 「いいか! これ以上、先輩に手をだしてみろ? 只じゃすまさないぞ!」 不良達は、恐怖に引きつらせた表情で、口々に謝罪の言葉を吐いた。 再び、平和な日々が戻った。 しかし、夏樹にある変化が起こった。 あの、先輩が不良グループに襲われた時の先輩の裸体が頭にこびりついて離れず、思い出すと下腹部が熱くなってくるのだ。 股間に垂れ下がった先輩のペニス。 それが勃起したところを想像すると、いてもたってもいられない。 触ってみたらどうだろう? 口に含んだらどうだろう?  そんな想像をしながら、毎晩のようにオナニーに精を出す。 やがて、自分のお尻の穴に挿れてほしい、と強く願うようになり、夏樹はようやくその先輩に恋をしたのだと自覚した。 そして、夏樹はついに告白する。 それは、最初に出会った時から3か月後の事だった。 満開に咲く桜の木の下。 いつものように中庭で読書にいそしむ先輩に、夏樹は頭を下げた。 「先輩、オレと付き合ってください!」 「ん? 君は、誰?」 先輩はゆっくりと本から目を離して言った。 「えっと……オレは、2年の竹林っていいます」 「ふーん。でも、付き合うって言っても、君と僕は男同士だろ?」 しごく冷静な言葉が返ってきた。 でも、夏樹の決心は揺るがない。 「それが関係ありますか?」 「関係があるかって……君は変わっているね」 首を傾げて呆れた顔をする先輩。 夏樹は、ずっと考えていた事を真っすぐに言った。 「愛に性別なんて関係無いってオレは思います。でなければ、何故こんな感情がオレの中に生まれたのか説明できません!」 先輩は、え!?と驚いた顔した。 そして、なるほど、と顎に手を置いた。 「……確かにそれは真理だね。男色は、かつて古代ギリシャの時代から文化として根付いている。日本でも、武士や芸事の間では当たり前のように行われていた。つまり人間にとって必要不可欠なものだったのではないか? ということだね……」 夏樹は、先輩の言葉に何を返していいのか分からずに慌てて答えた。 「せ、先輩。オレは、勉強のことは、そのさっぱりで……」 「はははは。まぁ、いいよ。面白いね、君。そうだね、付き合ってみようか? えっと、竹林君だっけ? 下の名前はなんていうんだい?」 その言葉に夏樹は顔をぱぁっと明るくした。 「は、はい! 夏樹です!」 「よろしく、夏樹」 先輩は、にっこり微笑んだ。 そして、ギュッと固く握手を交わした夏樹の顔は、興奮で真っ赤に紅潮していた。 **** 夏樹と先輩は相性がいい。 先輩は、夏樹に勉強を教え、夏樹は先輩に運動面の興味を与えた。 そして、体の方も……。 二人は時間と場所さえ合えば繋がり合った。 その日の場所は、誰もいない柔道場。 畳に寝ころんだ先輩の上に夏樹は乗っかり、騎上位の体勢で先輩を襲う。 「夏樹、お前、あいからわず、すごい激しいよな。うっ、うっ、締まる……気持ちいいっ……」 「だって、オレ、先輩の事が好きだから! うっ、ううう」  夏樹は、自分の半勃ちペニスをぷらんぷらんとさせ、アナルをぐいぐい前後に押し付ける。 アナルにすっぽり挿った先輩のペニスは、可哀そうなくらいパンパンに膨れ上がった。 奥のにゅるにゅるとした肉壁が亀頭とカリを包み込み、射精を誘導していく。 あまりの激しい夏樹の腰の動きに、先輩はついに根を上げた。 「うっ、夏樹……だ、だめだっ……いくっううううっ……」 夏樹の雄膣の中に先輩の精子が溢れる。 しかし、夏樹はそれでは収まらない。 先輩の痙攣するペニスをアナルに咥えたまま、先輩の乳首をちゅうちゅうとしゃぶりだした。 「って、お、おい、夏樹。ば、ばか、これ以上したら、俺のダメになっちまうよ……」 「だって、先輩。オレ、まだまだ、イキたりないっす。もっと元気になってください……ちゅっぱ、ちゅっぱ……」 夏樹は、アナルの中で萎えそうな先輩のペニスを、必死になって腰を動かしてしごく。       「はぁう、す、すごい……ははは、夏樹は、まるで発情した動物だな……ううっ」 「はぁ、はぁ、……もう! 先輩の意地悪! うううっ、おっきくなってくるっ、先輩のペニス、あっ、いいっ、先輩、先輩……」 そんな風に二人は心の赴くままに、アナルセックスを楽しんだ。 **** しかし、そんな二人に破局は突然訪れた。 切っ掛けとなったのは、先輩のいじめ問題。 以前から不良グループに目を付けられていた、というのはあるが、それに加え、先輩の飛びぬけた学力を妬むグループが現れたのだ。 利害一致した二つのグループは手を結び先輩をおとしめようと画策する。 エスカレートしていくいじめ。 先輩は、当初、夏樹には秘密にしていたのだが、ついにその現場を夏樹に目撃されてしまった。 元気の無い先輩の後を付け、辿り着いた旧校舎の男子トイレ。 そこで夏樹は、複数人の男達に囲まれ、裸で床に這いつくばる先輩の姿を目撃したのだ。 辺りには、男達の白い液が飛び散り、先輩の顔にもその液がどろどろと掛かっていた。 夏樹は逆上した。 凶器となった夏樹を止められる者はおらず、そこにいた男達はすべて夏樹の恐ろしさを目の当たりにした。 それは、柔道なんてしろものではない。 暴走した野獣……。 最後に残ったグループのボスが言った。 「ひぃ……お、お願いだ。た、助けてくれ……何でもする」 「助けろだと? お前達、先輩をどれだけ傷つけたんだ?」 バキ! バキ! バキ! 踏みつけられる手の甲。蹴り上げれれる顎。拳で打ち下ろされる頬。 辺りは、血が散乱し呻き声で包まれた。 夏樹は、先輩に近寄った。    「先輩、大丈夫ですか! これで、もう……」 しかし、先輩の反応は夏樹の予想とは違った。 先輩は、夏樹に大声で怒鳴った。 「やめろよ! 夏樹、どうしてこんな事するんだよ!」 「えっ!?」 驚いて聞き返す夏樹。 先輩は、怒りでわなわな震えている。 「どうして、こ、こんな事……なぜだ、なぜだ!」 先輩は頭を抱えた。 「……だ、大丈夫っすよ! これはオレがやったことです。先輩の進学には影響ありません!」 「そんな事を言っているんじゃない!」 先輩は、突然、夏樹の胸ぐらを掴みかかり怒鳴った。 「お前は何もわかっちゃいない! 俺の事を思うなら、放っておけよ! 俺を余計に惨めにするなよ!」 「……す、すみません、先輩! オレ、出過ぎたことをして……お、オレはただ……先輩が元気になってほしくて……」 先輩のプライドを傷つけてしまった。 それに気づいた夏樹は素直に謝った。 すると、先輩は、すうっと冷静になったのか、声のトーンを落として言った。 同時に、伸びてしまった夏樹のシャツをポンポンと伸ばした。 「そうだよな……夏樹、ごめん、俺も言い過ぎた……悪かった」 「せ、先輩! 分かってくれれば、オレはそれで……」 夏樹は、先輩の理解が得られて、ホッと胸を撫でおろした。 しかし、それも束の間。 続く先輩の言葉に衝撃を受けた。 「でもな、夏樹……俺は恐ろしいよ……」 「へっ」 「見てくれ、こんなにも手が震えて脚が震える……怖い、怖いんだよ……お前の戦いっぷり……なんだ、あの圧倒的な強さ……震えがとまらねぇよ」 先輩は震える自分の両手を、恐ろしい物を見るかのように見つめた。 恐怖に囚われた歪んだ顔。 怯えた目。 「せ、先輩? 大丈夫っすか」 夏樹は、堪らずに先輩に手を伸ばした。 しかし、その手は直ぐに振り払らわれてしまった。 「やめろ! 触るな、化け物!」 先輩のその言葉は、夏樹の胸をえぐった。 夏樹は放心状態で繰り返した。 「……ば、化け物って……」 先輩は、泣いていた。 そして、その涙を拭くことなく、最後の言葉を夏樹に伝えた。 「……ごめん、夏樹。もうお前とは付き合えない……」 「……せ、先輩! 先輩!」 それ以降、夏樹の言葉は先輩の耳に届くことは無かった……。 夏樹は、思ったのだ。 自分の強さが先輩を傷つけてしまった。 そして、強さと愛は両立できない。とも思った。 だから、夏樹は決断した。 『自分は、強さを極めていく。だから、愛を求めることは諦める』 と。 夏樹は、そんな辛い悲しい思いを背負っていたのだ。 **** 「どうした? 夏樹。考え事か?」 「え? いや、何でもない……」 ここは、2番街にあるカップル専用バー。 二人はゆっくり酒を飲もうと、場所をこの店に移していた。 夏樹は、カクテルグラスに手を伸ばす。 そして、グビっとそれを飲み干した。 過去は過去。今は今だ。 すっと気持ちを入れ替える。 隣には、今一番一緒に居たい男がいる。 それだけで十分。 ところで、この店は、最近の二人のお気に入りで、二人掛けのソファに横並びで座り、心ゆくまでイチャイチャできる。 薄暗く、ジャスの甘い曲が流れムードたっぷりで気分を盛り上げてくれる。 拓海は心配そうに夏樹に声を掛けた。 「本当に大丈夫なのか? 今日の夏樹は絶対に変だぞ?」 「いや、大丈夫。たぶん、少し疲れているだけ……」 「それならいいが……」 拓海は、カクテルのチェリーを咥えて、唇を突きだした。 夏樹は、「またかよ……」とうんざりした言い方で、そのチェリーを咥えに行く。 重なる唇。 そのまま、拓海は夏樹の唇奪った。 絡み合う舌。 「んんっ……んんんっ……ちゅぱっ、ちゅっぱ……」 隙間から滴る涎……。 はぁあ、はぁあ、と甘い息を吐きながら、尚も舌を伸ばして先の方でちろちろと舐め合う。 夏樹の潤ませた瞳は、物欲し気に拓海を見つめた。 そして、口を半開きしながらすっと、拓海の胸にもたれかかった。 拓海は、そんな甘えたい夏樹の気持ちを感じ取り、手を伸ばし夏樹の腰をぎゅっと掴み自分の方へと引き寄せる。 やがて、夏樹の体は拓海の腕の中へと収まっていく。 (オレは、ここが一番落ち着く……) 嬉しそうに頬を赤らめる夏樹。 でも、そんな可愛らしい顔を自分がしているなんて夏樹は思ってもいない。 拓海はそんな夏樹を愛おしく見つめながら、大きな手でゆっくり体中を愛撫していく。 頬から首筋、そして、つうーっと這うように、肩から腕、背中に回って、最後はお尻へ。 そこで、やさしく円を描くように撫で始めた。 「うっ……や、やめろ……」 喘ぎ声とも付かない上ずる声。 やがて、拓海の手はおもむろに夏樹の股間に移動する。 そこにあるのは既に勃起したペニス。 拓海は、逆手でそれをギュッと握ると、竿とも玉とも問わず、もみくちゃに揉んだ。 服の上だとしても、そんなに激しく触られたら溜まったものではない。 「うううっ……拓海……なんつう触り方しているんだよ……はぁ、はぁ」 「ふふふ、夏樹、気持ちいいんだろ? 顔真っ赤だぞ……お前」 「な!?」 夏樹は、慌てて手の甲で顔を隠した。 「ば、ばか……ふざけんな!」 そして、拓海の手をそのまま股を南下した。 ペニスの更に先にある場所……アナルへと進み始めたのだ。 後少しの所で手を止めた拓海は、夏樹の耳元で囁いた。 「なぁ、夏樹。今日こそは、いいか?」 「……ああ……」 夏樹は、イエスともノーともと付かない声を上げた。 愛は捨てたつもり。 でも、体はそうは言っていない。 気持ちの高鳴りは抑えきれない。 拓海の愛撫を欲している。 触ってほしい、触れられたいし、感じたい。 性欲を吐き出したい。 しかし、そんな思いとは裏腹に、心の声がこだまする。 『なぁ、夏樹。強さと愛は両立しない。そうだったよな?』 『お前は、このままの関係で何が不満なんだ?』 『お前は、嫌わていいのか? 拓海に。かつて愛した先輩のように』 (だ、ダメだ……) 夏樹は、手を伸ばし拓海を引き離した。 「う……うん。ちょ、ちょっと待ってくれ……やっぱり、ごめん」 それを聞いて、すっと手を引く拓海。 そして、姿勢を正すと両手を広げて言った。 「ふっ、いいさ。気にするな……でも、どうするよ、俺達すでにガチガチに勃起しているが……」 二人一斉に互いの股間を見た。 二人ともズボンの前がパンパンになるほど山になって張っていた。 なんだか可笑しくなって、一斉にクスクスと笑い出す。 笑いながら夏樹は提案をした。 「くくく……じゃあ、どっちが先に相手のを射精させられるか、勝負といくか?」 「ああ、いいぜ!」 一斉にお互いのズボンのボタンを外し合いを始めた。 アホらしくて子供っぽいが、これでいい。 夏樹は思う。 これこそ男同士のじゃれ合い。そして、友達以上、恋人未満の関係に相応しい、と。

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