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すれ違う笑いのツボよりも愛は深く――9
「僕らがこうして1日中一緒にいられる時間は限られてるっていうのに、変な縛りを勝手に作らないでよ」
「悪かったな。和臣の負担になるかと思って」
「なるわけないでしょ。むしろ足りないくらいなんだよ」
俺の胸に持たれながら苦笑いを浮かべる和臣に顔を寄せかけて、ふと止まってしまった。
「恭ちゃん、どうしたの? いつもなら僕の機嫌を取ろうと、チュッってしてくれるところなのに」
「あ……、何かいきなり思いついたというか」
「何を?」
「橋本さんも今頃恋人と一緒に、年末を過ごしているのかなって」
目の前にある不機嫌そうだった和臣の顔が、見る間に驚愕の表情に変わった。
「橋本さん、恋人ができたんだ。よく口にしていた、可愛いお尻の形をした女のコと上手くいっちゃったの? それとも――」
「俺たちと同じ同性で、相手の職業もドライバーだって。何でも気絶させられたらしい」
「気絶ぅ!? それって橋本さんがネコになって、相手にガンガン攻め立てられて、気絶しちゃったってこと? どう見たって、橋本さんはタチだと思っていたのに」
俺が着ているパジャマの襟を掴んで揺さぶりながら、すごいことを口走った和臣に事実を伝えにくい。もろもろの説明を飛ばしてしまった俺の責任でもあるが、この勘違いもなかなか面白いものだと思った。
面倒見のいい親分肌の橋本さんが誰かの手によって感じさせられ、弱々しい表情をしている場面を想像してみた。これはこれでアリだなと思わずにはいられない。
「恭ちゃんってばいやらしい顔してる。どうせ、橋本さんがヒーヒー喘いでいるところでも妄想してるんでしょ」
(さすがは臣たん。俺の顔色一つでそれを読み取ってしまうとか、これって愛があるからだよな)
「今度はデレっとした。他の人のことで、そんな風になってほしくないよ!」
「違う違う。すべてが誤解だって」
「嘘ばっかり!」
プイっと顔を逸らして怒ってますをアピールする和臣の頬を、つんつん突っついてみる。
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