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愛する想いを聖夜に込めて――5
☆ ⌒Y⌒Y⌒Y⌒
ふたりが案内されたのは、グランドピアノが傍に置いてある、フロアの一角だった。静かに向かい合って席に着く。
「ねぇ恭ちゃん、ピアノの上にクリスマスソングのリクエスト承りますって書いてある!」
興奮した様子で話しかけた和臣とは裏腹に、榊はしょんぼりしていた。広いフロアの片隅に位置するテーブル席――榊から見える景色は窓際を背にした、フロアを一望できる場所だった。
「橋本さんたち、窓際の席なんだな……」
あとから最上階にやって来た橋本と宮本を、振り返りながら遠目で眺めていると、夜景の見える窓際へ案内されていた。
「ほんとだ、外の眺めが良さそうだね」
榊のセリフに返事をした和臣の口調が、いつも通りなのが救いだった。羨ましがるような様子を見せずに、テーブルに置いてあるメニューを見始めた。
「クリスマスおまかせコースなんて、なにが出てくるのかワクワクしちゃうな」
「クリスマスといえば、ローストチキンなんて当たり前すぎるか?」
気を取り直して微笑み、和臣に問いかけた。すると、こめかみを人差し指で突っつきながら口を開く。
「確か昨年は、スーパーの値引きシールの貼られた余り物のローストチキンやオードブルを買って、夜遅くにパーティしたよね。僕も帰るのが遅かったから、しょうがないんだけど」
「俺は、和臣とイチャイチャしたことしか覚えてない。今年は早く解放されたんだな」
「毎年かわりばんこで残業してるから、今年は定時であがらせてもらえたんだ。もし駄目そうなら有給を使って、間に合わせる予定でいたんだよ」
榊の微笑みにつられるように、和臣も嬉しそうな表情を浮かべた。
(ああ臣たん、俺がプレゼントしたネクタイが思った以上にスーツに似合っていて、今すぐ食べてしまいたいくらいに可愛い……)
「お客様、失礼いたします。お飲み物のご注文を承りたいのですが――」
新底済まなそうな感じでウェイターに話しかけられて、彼がずっと傍にいたことを知った。和臣とイチャイチャしたという台詞を告げてしまった手前、この場から消えてしまいた心情にとらわれ、榊から口を開けない。
「すみません。お店があまりにも素敵で盛りあがっちゃいました」
和臣がナイスなフォローの言葉を告げると、ウェイターは柔らかな笑みを唇に湛える。
「ありがとうございます。お飲み物は、メニュー表からお選びくださいませ」
「オススメはどれなんですか?」
ウェイターの態度が変わらなかったこともあり、勇気を出してメニュー表に視線を落としながら訊ねることができた。
「アルコールですと、オススメはワインです。赤・白・ロゼと、気にせずにお選びいただけます」
腰を少しだけ曲げつつ、榊が見ていたメニュー表のドリンク欄を指し示してくれた。
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