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愛する想いを聖夜に込めて――6
「じゃあ、僕はロゼをお願いします」
「和臣がロゼなら、赤にしようかな」
「畏まりました。少々お待ちください」
珍しく即決した和臣のチョイスを聞いて、あえて違うものを選んだ。普段は500mlの缶ビールをふたりで飲むことが多いので、こうして別なものを飲むのは久しぶりだった。
「恭ちゃんだけじゃなく、僕も年末は仕事納めの関係でバタバタするせいで、どうしても落ち着かない感じで過ごしているけど、こんなふうにクリスマスを過ごすのもいいね」
ウェイターが去ったのを見計らって、12月に入ってからの互いのことを口にした和臣。榊はテーブルに頬杖しながら、楽しげに語る恋人の顔を黙って眺めた。
(年末に向けて忙しいせいで、臣たんとこうしてまったり時間を過ごすことすら、幸せに感じてしまうとは――)
「ねぇこれからクリスマスは、こうやってどこかで食事をすることにしようよ。それを年末の頑張りにして、働いてみたいな」
「そうすると来年は間違いなく残業コース決定の和臣のイブは、誰かが代わってくれることになるだろう? 申し訳ない気持ちにならないか?」
誰かがノルマを達成できなかった場合、仕事に余裕のある人間が足りない分を補うということをしている、自分の職場のことを咄嗟に思いついてしまった。
「イブかクリスマス当日の、どちらかを残業すればいいだけのことなんだ。通常業務で仕事をあがれるように僕が日々頑張れば、残業する時間が減るかもなって。恭ちゃんと食事に行くための目標にすれば、いつも以上に頑張れる気がする」
わざわざ片腕に力こぶを作ってみせた和臣に、榊も真似をしようと頬杖をついてた腕で同じことをした。
「だったら俺も頑張って、仕事をこなさないといけないな」
「恭ちゃんは普段から頑張ってるよ。むしろ、もう少しだけ余裕を持ってほしい」
「余裕?」
告げられた言葉の意味がわかりかねて、力こぶを下ろしながら小首を傾げた。
「そう。大変な仕事をしてるのはわかっているけど、うまく休憩というか休みをとって、根を詰めないようにしてほしいんだ。いつかみたいに倒れちゃいそうで、僕としては心配が尽きないんだよ」
力こぶを作っていた手を胸に当てて、苦笑いを浮かべる和臣に、榊は改めて姿勢を正して頭を下げる。
「その節は大変お世話になりました」
「僕のほうこそ記憶がなくなっちゃって、恭ちゃんをヤキモキさせちゃったよね」
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