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愛する想いを聖夜に込めて――7

 ちょっとだけ顔を歪ませて苦笑いする和臣に、榊が話しかけようとした瞬間だった。 「失礼いたします。赤ワインのお客様」  姿勢を正したウェイターがふたりに向かって話しかけてきたので、榊は無言のまま右手をあげて自分だと示した。胸元につけられた葡萄のバッチで、彼がソムリエだと気がつく。それを話題にしようと思ったら、和臣が先に話しかけてきた。 「ワインを飲むの、いつ以来だろうね」 「うーん、そうだな……」  和臣の前にもグラスが置かれ、互いにそれを手にする。ウェイターが去って行くのを目にしつつ、返事をきちんと考えながら言葉にした。 「俺は接待でも滅多に口にしていないから、ものすごく久しぶりになるな」  榊は目の高さまでグラスを上げて、赤ワインをくるくる回してみせた。動かしたことでルビーのような色の液体から、ブドウの豊潤な香りをすぐさま鼻が感知する。 「恭ちゃんは何をやっても様になるね、羨ましい」 「そんなことないって。それよりも乾杯しよう」  和臣に向かってグラスを差し出したら、「えっと、ん~」なんていう悩ましいセリフを言いだした。 「和臣、なにを悩んでる?」  優柔不断な恋人に訊ねても、あいまいな答えしか返ってこないことがわかっていたが、榊としては訊ねずにはいられない。 「何について乾杯したらいいかなぁって。今年一年いろいろあったから、どれがいいか迷っちゃった」 「こういうのは案外、シンプルに考えてみるのが手っ取り早いと思う」  嬉しげに、口角の端をあげて答えた榊。いつも二択で和臣に答えを選ばせていたが、譲れない答えがあったため、あえてそれをやめた。 「シンプル?」  和臣は首を傾げたまま、きょとんとする。 「ああ。だから結婚して、はじめて過ごすクリスマスイブに――」 「乾杯っ!」  榊たちらしいやり取りで、仲良く乾杯した。はじめて過ごすクリスマスイブに、相応しい乾杯だった。

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