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愛する想いを聖夜に込めて――8
☆ ⌒Y⌒Y⌒Y⌒
昨年食べた売れ残りのローストチキンと、目の前に出されたチキンの違いに、榊共々唸り声をあげつつ、ほかの料理も堪能した。
(恭ちゃんと一緒に美味しいコースメニューを食べているから、いつもより美味しく感じるのは当然なんだけど――)
出されたデザートにフォークを差して、目の前の恋人に視線を移してみた。
いつも以上に熱心に話しかける榊の声を心地いいと思いながら、にっこり微笑んで耳を傾ける。その声は聞き慣れたものなのに特別に思ってしまうのは、スリーピーススーツがよく似合う恋人が、自分を相手にしていることだった。
これを身につけるときは会社にとって大事な商談の場だけなので、こうして食事に行くことで着てくれた榊に、和臣の中で嬉しさが募っていた。
「和臣って、イチゴが似合うよな。すっごく可愛い」
「恭ちゃん、ワイン飲みすぎたんじゃないの? 僕よりも恭ちゃんのほうが可愛いんだよ」
あまりお酒に強くない榊が、喋りながら赤ワインをちびちび飲んでいるので、さりげなく注意してみる。
「そんなことないって。口にしたイチゴをもごもご食べてる和臣、ハムスターみたいに可愛い」
他にもなにかブツブツ言い続ける榊のしつこさに辟易して、窓際にいる橋本たちを眺めてみる。宮本の膝の上に、真四角の箱が置かれているのに気がついた。橋本の顔とそれに視線を落ち着きなく行き来させる姿に、和臣の目が釘付けになった。
真四角の箱――それは指輪が入っているであろう濃紺のビロードのケースのように見えるせいで、今後のふたりの展開から、どうしても目が離せない。
(今日はクリスマスイブ。もしかして、もしかするかも!)
「ねぇ恭ちゃん!」
「どうした、顔が赤くなってるぞ」
「赤くもなるよ。興奮してるから!」
「興奮って、こんなところでなにを言い出すかと思ったら。そういうのは、マンションに帰ってから妄想すれよ」
なぜだか照れくさそうな顔した榊が窘めるが、和臣の気持ちは収まらなかった。
「これは妄想なんかじゃない。現実に起こってることなんだよ」
握りしめたフォークを片手に熱く語ってみせるが、榊は目を瞬かせながら首を傾げる。
「おいおい、話がまったく見えないって。いったい何があった?」
落ち着けと言わんばかりに声のトーンを落とし、顔を寄せて訊ねた恋人の行動で、和臣の中にある興奮も徐々に収まってきた。自分を簡単に落ち着かせることができた榊に、さすがは幼なじみだなぁと思いながら、同じように声のトーンを落としつつ顔を寄せる。
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