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愛する想いを聖夜に込めて――9
「宮本さんの膝の上に、指輪のケースが置いてあるんだけど、それをなかなか出せないでいるみたい」
和臣の言葉に榊は振り返り、窓際にいるふたりに視線を飛ばした。細かいことも見逃すまいと、瞳を凝らして観察してみる。
「……確かに。あの感じは、思いっきり出しそびれているな」
楽しげに語る橋本を目の前にして、宮本も表面上は嬉しそうに笑っているが、膝の上に乗せた箱を持つ手がふるふる震えて、出すタイミングを計っているのが明らかだった。
「恭ちゃん、ピアノ弾ける?」
唐突に和臣から問いかけられたセリフに、顔の向きを戻しながら眉根を寄せてみせる。
「うーん。中学卒業と同時に辞めて以来、鍵盤に触れていないからな……」
「でもでも、全国のコンクールとかに出たことあったよね。僕、応援に行ったの覚えてる」
制服とはまた違ったスーツを身につけた中学生の榊は、コンクールに出た大人の中に混じってもまったく見劣りせずに、華麗な演奏を奏でたことを、和臣は未だに覚えていた。賞に入っていないのにもかかわらず、榊のあまりの格好良さに、知らない女の子やおば様たちから花束を貰っていることもしっかり記憶している。
「ねぇ恭ちゃん、できそう?」
「そこでピアノを奏でている従業員に、リクエストすればいいんじゃないのか」
「僕は宮本さんのために、恭ちゃんに弾いてほしいんだ」
「和臣?」
榊を好きだった橋本が、宮本を好きになって諦めてくれた――そのことを知って、最初のうちは複雑な心境に陥った和臣だったが、今は純粋にふたりを応援する気持ちになっていた。だからこそ……。
「実はただの、理由付けだったりするんだけど。久しぶりに、恭ちゃんがピアノを弾いてるところが見たいだけなんだ」
別の本音を漏らしてみたら、榊の目尻が思いっきり下がった。それだけで強請ったことを叶えてくれるのが、手に取るように分かる。
「なんの曲?」
「恋人はサンタクロース」
「優柔不断な和臣が曲名を迷うことなく言えたところ見ると、最初から計画していたな。まったく……」
そんな文句を言いつつも、榊はポケットからスマホを取り出して、指定された楽譜を検索する。
「難しい?」
「メロディーラインは、それほど難しいものじゃない。ただそこから、俺のアレンジを加えるのがちょっとな……」
「恭ちゃんのアレンジか」
これまで榊が弾いてきたものはクラシックばかりだったので、どんなアレンジになるのか想像つかないからこそ、和臣としても胸が躍った。
(恭ちゃんの演奏だから上品な感じの、恋人はサンタクロースが聞けちゃいそうな気がする)
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