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愛する想いを聖夜に込めて――13
エレベーターの扉が開くと、榊は抱きしめていた腕を自ら外して、和臣の手を無言のまま引っ張る。ふたりそろって中に入り、榊が下に行くボタンと扉を閉めるボタンを押した。
ほどなくして躰に僅かな振動を感じつつ、和臣は繋がれた状態の手を見つめる。時折伝わってくる躰の震えの原因を、自分なりに考えた。一生懸命弾かなきゃと言った榊の言葉から、多少のプレッシャーを感じたけれど、それ以外の原因がさっぱり思いつかない。
「恭ちゃん、大丈夫?」
だからこそ、少しでもいいから榊の中にある不安を自分の手で取り除いてやりたいと、思わずにはいられなかった。
心配して訊ねた和臣に、榊は小さく笑ってみせる。
「和臣を抱きしめたら、結構落ち着くことができた。ありがとな」
「僕は、なにもしてないよ」
「そんなことないって。こうして手を繋いでるだけでも、かなり癒されてるから」
会話を交わしているうちに到着を知らせる音が、ふたりの耳に届いた。手を繋いだまま出て、コートを預けたカウンターに向かう。
「さきほどは、大変素晴らしいピアノをお聞かせくださり、ありがとうございました」
声をかけてくれたのは、フロアでピアノを弾いていた従業員だった。
「いえ……。実際は、人前で披露するようなものではなかったんですが。こちらこそ突然の申し出を聞き入れていただき、ありがとうございました」
自身のコートを受け取りながら礼を言った榊に、従業員はふわりと笑いかけた。
「お客様のピアノを聞いていて、音を奏でる楽しさを思い出しました」
「音を奏でる楽しさですか?」
「はい。普段は大勢のお客様の前で弾くことが、僕の仕事になってます。なんて言うのでしょうか、義務として弾いてるところがあったなぁと、改めて考えさせられました」
従業員の言葉を聞いて「あ、なんとなくわかるかも!」と、榊よりも先にコートを着た和臣が弾んだ声をあげる。
「恭ちゃんの演奏、一音一音が弾んでいて、聞いてるだけでとっても楽しかったんだ。はじめて聞いた人にだって、それが伝わったと思うよ。どんな人が弾いてるんだろうって。それでああやって、周りに人が集まってきたんだ」
「そんな演奏、俺がしていたのか?」
「してたしてた。あのフロアで、自然と耳に入ったピアノを聞いて、興味を持ったお客さんがたくさんいたじゃないか。しかも楽しそうに弾いてる恭ちゃんは、絶世のイケメンなんだから、一度に二度美味しいよね」
「僕に代わって、ずっと弾いていてほしいくらいでした」
和臣と従業員に褒めちぎられた榊は、頬を赤く染めながら、コートの袖に腕を通す。
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