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愛する想いを聖夜に込めて――18

 従業員は和臣から前金を受け取りながら話しかけると、榊は頬を掻きながら照れくさそうに口を開いた。 「和臣とは結婚しているんです。今年施行された同性婚の関係で……」 「そうでしたか。ご結婚されているなら恋人でいたときより、安心して一緒にいられるわけですね」 「安心してなんていられません。さっき見たでしょう、恭ちゃんのピアノを弾く姿!」  得意げな顔して話に割り込んだ和臣に、従業員は「ああ、確かに」と言って、フロアでのことを思い出しながら、榊の顔を眺めた。 「ふたりに肯定されても、俺としてはどうしようもないんだけど……」  弱りきった様子の榊に、和臣はカラカラ笑い飛ばした。 「恭ちゃんは僕にぞっこんだもんね。誰かが誘惑しても、ちゃんと断ってくれるのがわかってるよ」 「そこまでわかってるなら、心配する必要ないだろ」 「相手の気持ちがきちんとわかっていること、すごく羨ましいです」  微笑みながら心の内を吐露した従業員に、和臣はちょっとだけ考えてから語りかける。 「気持ちは見えないものだから、見ようとしないとわからないんです。僕らは幼なじみでずっと一緒に過ごしてきたけど、自分の想いにいっぱいいっぱいになっちゃうと、すぐに相手の気持ちが見えなくなってしまうんです」  和臣が榊の右手をぎゅっと握りしめて笑いかけると、小さく頷いた。 「相手のことを知りたいと思うのなら、まずは自分から飛び込まなければいけないんです。それはとても勇気のいることだけど、飛び込んだことが相手に伝われば、必ずリアクションが返ってきます」 「飛び込んでみませんか、恋人さんのために……」  榊の言葉を使って説得してみたら、従業員の沈んだ瞳が、みるみるうちに生気がみなぎっていく。頬の色を上気させながら、目の前にいるふたりに話しかけた。 「正直なところ、飛び込むことについて、すごく勇気がいります。誤解させたまま、バーを辞めてしまったので。ですが――」 「誤解させたままなら、なおさらです。勇気が足りないのなら僕の分をあげますし、それでも足りないようなら恭ちゃんの分も」 「勝手にやるなよと言いたいところだけど、足りないのならいくらでも献上しますよ」 「ありがとうございます! 早あがりできるか聞いてみて、すぐにでも恋人の店に駆けつけますっ」  従業員は深く一礼したのちに、店の奥のほうに消えてしまった。

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