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リップクリームチャレンジ5

「和臣、最後のリップクリームのケースには、なにも印刷がされていないんだな」  しげしげとそれを見つめる榊の視線の先に、真っ黒いリップクリームがあった。プリントされていない最後のそれはケースが黒いせいで、妙な雰囲気を漂わせる。しかも今までは色味をヒントにして、榊は当ててきたので、自然と身構えてしまった。 「実はそれを見ただけで当てられると思ったから、無理やり外しちゃったんだよね」 「なるほど。それは大ヒントになる」  自信満々の榊に視線を飛ばした和臣は、手早くティッシュで唇を拭い、最後のリップクリームを手に取る。榊も絶対に当ててやるという闘志を燃やしながら、ティッシュを引き抜いて自身の唇についたメープルシロップの風味をしっかりふき取り、目をつぶった。  和臣の片手が榊の顎を掴み、唇を強く押しつける。 「つっ!」  爽快感のあるそれを唇全部に感じて、榊は思わず声をあげた。 「恭ちゃん、わかった?」 「そんな一瞬じゃわからないって。ガム特有の爽快感を感じただけで、ほかにもなにかありそうな気がする」  目を見開いて文句を言った榊に、和臣は意味深に瞳を細める。 「だったらもっと探って。恭ちゃんからキスしてほしいな」 「爽快感が強いから、その……。深くくちづけることになるけど、いいのか?」  求めることを暗に匂わせた榊に、目の前で細めた瞳をしっかり閉じて、無言で和臣はOKした。榊はそのまま細身の躰を抱きしめて、ゆっくり顔を寄せ、しっとりと唇を押しつける。 「ンンっ!」  爽快感に隠れたなにかは、食べたことのある独特の風味から想像がついたので、深くくちづけた時点でわかったものの、榊はその甘さに酔いしれて、和臣の舌に自身の舌を絡ませる。 「き、恭ちゃん……」 「和臣のチョコミントが美味しすぎて、もっと欲しくなる」  抱きしめた躰をソファに押し倒し、顔の角度をつけてふたたび和臣の唇を塞いだ。 「ぁあっ、もお恭ちゃん、ベッドに行こうよ」  無理やり頭を振って榊の唇を外した和臣は、ベッドに行くことを提案したのに、榊はそれを華麗にスルーし、首筋に唇を押しつける。 「ひゃっ、スースーする!」 「ん? そんなにすごいのか?」  和臣のセリフを聞いて、榊はやっと上半身をあげた。 「唇に塗ったときは、そこまで感じなかったのにね。恭ちゃんも体感してみて」  イジワルに笑った和臣は、榊の首に両腕を巻きつけるなり、喉仏にむしゃぶりついた。 「ヒッ! ほんとにスースーする!」  榊が躰を震わせて言ったのに、和臣は楽しげに喉仏をはむはむしまくった。 「和臣、悪かったって。ちゃんとベッドに移動するから、やめてくれよ……」  整った顔を困ったように歪ませる榊の躰に、和臣は満面の笑みでぎゅっと抱きついた。 「それならこのまま、優しくベッドに運んで」  甘えるような声で強請った和臣。耳の奥に残るその声に導かれるように、榊は細身の躰を横抱きにし、貴重品を運ぶ感じで寝室に向けて慎重に歩く。 「やれやれ。リップクリームのゲームが、こんなふうに甘いものになるとは」 「恭ちゃん、嫌だった?」 「楽しかった。今度は俺もなにか考えようかな」  和臣が突発的に企画したゲームのおかげで、榊の疲れが吹き飛び、夜の行為へすんなり移行することに成功するとは、夢にも思わなかった。それゆえに次回は自分がなにかを和臣にしてあげようと胸を躍らせながら、ベッドの海に沈んだのだった。  愛でたしめでたし♡

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