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この想いは蜜よりも甘く3・記憶の糸と甘い蜜(本編試し読み)②
***
恭介が行きたくないパーティーがある、週末の金曜日。
和臣が朝ご飯を食べながらそのことについて恭介に訊ねてみたら、場所や時間など詳しいことを上司から一切聞かされていないし、自分からも質問していないとのことだった。
以前にもそれに似たパーティに出席した際に、パーティー当日に指示された経緯があるから、今回も同じようになるだろうと、ひどく憂鬱そうな表情で説明された。
「なぁ和臣、今日のお弁当の中に卵焼き入ってる?」
お互いそろそろ食べ終える頃に告げられた言葉に、和臣は首を横に振ってみせた。
「ええっ、マジか……」
(卵焼きたったひとつに、そんなに落胆しなくてもいいのに――)
「卵焼きは入ってませんが、ゆで卵が入ってますよ。そのままじゃなくて、黄身にマヨネーズを混ぜ込んで味付けしてあるので、普通のゆで卵を食べるよりはおいしいと思うんですけど」
「そうか。それは楽しみだ」
楽しみだと口では言ってるのに、恭介からは楽しそうな感じが全然伝わってこない。
(榊さんとしては、仕事のあとに行きたくないパーティーが待っているし、ここぞとばかりに気落ちする気持ちを理解してあげなきゃいけないか)
「しょうがないですね。台所に放置されてる洗い物と、ここの後片付けを榊さんがしてくれる条件で、今から卵焼きを作ってあげます」
「本当に!? これから作ってくれるのか? 間に合うのか?」
うれしくて堪らないといった感じで恭介は瞳をキラキラ輝かせ、身を乗り出して声をあげた。和臣はその様子を、残ったみそ汁を飲み干しながら垣間見る。
「和臣、俺が後片付けを全部したら、卵焼きを作ってくれるんだな?」
みそ汁を飲んでいる最中だというのに、焦りを抑えきれない榊がふたたび訊ねた。
「作る時間があるから言ったんです。ただし後片付けを――」
「俺が引き受ければいいんだな。任せてくれ!」
恭介は残しているご飯を慌ててかき込みながら、顔に隠しきれない笑みを浮かべる。そのことに和臣は呆れつつ、空になった食器を手にして台所に向かった。
誕生日やお祭りの日の子どものようにはしゃぐ姿に内心苦笑したが、和臣の心はとても晴れやかだった。こうして恭介にうまく飼い慣らされるのも、案外悪くないなと思ったのだった。
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