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第3話

「事実は何とかより奇なり、か」  津麦は尾場が入れたココアをカッと飲み干すと、尾場に「ごめん。尾場さん、また来る」と言い、多米の手を掴んだまま、店を後にする。  津麦に半ば引っ張られるようにして、OGSから彼のアパートまで来た多米は「片づけるから5分だけ待って」と言われて今に至っていた。まだ冬の気配が残る3月の上旬の日としては何とも暖かい日で、多米は律儀にも津麦の希望通り、彼の部屋であるヌードリアメゾンIの603号室の前で待つ。 「お待たせ。さぁ、どうぞ」  津麦は「待ってくれてありがとう。寒くなかった?」と言い、部屋へと多米を招き入れる。 「さぁ、でも、今日は暖かい方じゃない?」  多米は津麦の部屋に入る前に薄手の、黒いトレンチコートを脱ぐ。  津麦の気遣いに反して、外は寒くはなく、日差しが程良く多米のコートに当たっていたこともあり、実に気持ちが良かった。 「そうだねってごめんね。多米君もゲームするのかって思ったら、嬉しくて、こんなところまで来てもらって……」  控えめにそんな風に言って笑う津麦に、多米は津麦に抱いていた印象が変わる。  多少、多米の思い込みの部分もあるが、陰キャだ、陽キャだという前に津麦を別の世界の人間だと勝手に線引きして関わらなかったのではないだろうか。  よくゲームでも毛色の違う者同士が仲間になるということはあるが、それは単にキャラづけだけではあって欲しくないと多米は思う。目的なり、心情なり、信念なりを同じとするから行動を共にする筈なのだ。 「俺は少し意外だったかな? 津麦……さんがゲームやる人で、しかも、実況までやってるなんて」  津麦、と呼び捨てた方が良いのか、津麦のように君と敬称をつけた方が良いのか、いっそのこと、「つむぎん」とか馴れ馴れしく呼ぶか、「津麦殿」と恭しく呼ぶ方が良いのか。多米は悩んで、さん、と呟く。  すると、津麦は「呼びやすいように呼んでくれたら良いよ」と切り出す。 「てか、俺も多米君って勝手に呼んでるけど、タメタメとか、杏ちゃんとか、良いヤツがあれば、それで呼ぶし」 「杏ちゃんはともかく、タメタメって……」  津麦の口から何とも気の抜けた響きが聞こえ、多米は肩の力をかたりと落とす。  いつもデフォルトの名前でプレイを始める彼らは互いに自身の呼び方を任せると、多米は津麦に聞いてみた。 「びーさんはこの部屋で撮ってるの?」  びーふんだからびーさん。  ビーフンというよりは、ビーチサンダルっぽいが、憧れでもある実況者にリアルで目の当たりにして、ビーフンと呼ぶのも多米にしてみては躊躇われた。  すると、津麦は「いや、こっちだよ」と隣の部屋に続くドアをガラガラと開けた。

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