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第10話

「最近、たーさん。栗田の台詞、上手くなったね」  多米が津麦と『LOVERS』の実況を始めて、3回目。  だんだん適当に選択肢を選ぶだけでは既出のエンドを迎えることが増えてきたので、実況の録画をカットすることが増えてきたが、最初はどこかぎこちなかった多米の台詞はどんどん滑らかになっていっていた。 「なんか、本当にたーさんが俺に向かって言ってるみたいに聞こえる時があるよ」 「本当にって……何だよ、それ」  たーさんこと多米は笑うが、確かにたまに演技ではなく、柿埼役の津麦へ言っている時がある。だが、BLなんていうのはフィクションやファンタジーだから許される。そんな面もあると多米は思うのだ。  仮に、多米が津麦のことをもうただの共同実況者だとは思えなくても。 「どうせ、朝からロクなもの、食ってないんだろ」  おかしな雰囲気になる前に、多米は録画を切るように津麦に促す。  すると、いつものように編集点を作って、録画を終える。 「今日は新規エンドは2つか…あとバッドエンドが6で、特殊エンドが3、トゥルーで1だからあと5分の1かな?」 「え、ああ……そうだな」 「うどんばっかじゃあれだから、牛丼でも買ってこようか」  いつもなら録画を終えたら、津麦はすぐに録画をカットしたり、音楽や映像を入れたりして、編集をし始めるのに、どこかぼんやりとしている。 「びーさん?」 「ああ、うん。牛丼なら肉が1.5盛りで、汁だくで」  どこか沈んだように聞こえる津麦の声色に多米は気がつかない振りをして、「ああ」と言う。  パタリと閉まる玄関を津麦は少しだけ見ると、先程、撮ったばかりの実況を聞き出す。 「『もう何度なく、時間を繰り返してきた。柿埼のことなんて……』」  と栗田役の多米が真に迫った様子で、口にしている。そして、津麦はその次の台詞を多米に被らせるように呟いた。 「「こんなに苦しいなら好き……になんてならなきゃ良かった」」 「たーさんのことなんて……」

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