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第17話

「びーさん? なんか、変じゃない? 今日」  いつもは津麦の方が口数が多いし、軽口も叩く。  まるで、津麦の形をした何かのように多米は不気味ささえ感じるが、津麦の形をした何者かの腕を振り解かないでいた。 「ほんとにたーさんはフラグ、立てんの、上手いね」 「え……」  津麦は多米を抱きしめていた腕を解くと、クルッと一回りする。 「びーさん……?」  本当にどうしたの、とか、なんかきもいんだけど、とか、色んな言葉が多米の脳内に浮かんでは消える。  戸惑いと不安。  津麦はそんな多米の心中を嘲笑うように提 降りてみない?」 「やっぱり、人はいないか」  先程とは違い、砂浜に降りた津麦はいつもの調子に近いテンションで話す。  懐疑的な感情は拭いされないが、同じく砂浜に足を踏み入れた多米もほぼいつも通りの感じで「そりゃ、台風が来ているからね」と返す。  まだ波はそんなに高くなく、風もあまり強くない。立ち入りも禁止されてはいないが、時間の問題だろう、と多米は思った。 「さっき、たーさんに言ってないことがあったって言ったけど、実はもう1つあって……」  津麦はいつもの調子は崩さずに話す。  だが、続いた言葉はあまりに突拍子もないものだった。 「さっき、世界が終わるのを見たことがある人間はいないってたーさん、言ってたけど、似たような光景なら俺、見たこと、あるんだ」 「似たような光景?」 「世界が終わる……厳密に言えば、世界が巻き戻るのを何度も何度も」  津麦は歩き出すことも、多米の顔を見ることもなく、海をじっと見て言う。 『世界が巻き戻る』。  それこそ、現在、多米達が実況しているゲームの主人公の栗田滋のように津麦は何度なく、世界の時間を巻き戻していると言う。 「へぇ、実況だと俺が栗田役で時間を巻き戻してて、びーさんが何度も死んじゃう柿埼役だったけど、実は逆だったんだ」  多米も津麦の言葉を鵜呑みにしている訳ではないのだが、茶化すには海の色があまりに重い。空の色もあまりに重い。  風とか空気みたいなものも本来、軽やかなものである筈なのに重かった。 「より正確に言えば、世界の時間は俺の意思で巻き戻されている訳じゃない。俺がある条件を満たすか、諦めるかすれば、世界の時間は巻き戻ることはないと思う」 「ある条件? 諦める?」  多米は津麦の言葉を拾うように、反芻すると、津麦は重い空を見上げる。

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