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第18話
「もう何度、この会話や説明をしたか分からない。何度も繰り返すのが辛くて、たーさんと出会わない選択肢を選んだこともあったけど、やっぱり、気づいたら時間は巻き戻っていた。たーさんと出会った大学1年の3月のあの日まで」
津麦の半ば独白に近い言葉は嵐の前の風にスッと消えていく。
それはこの言葉も例外ではなく……。
「今度はもしかしたら、大丈夫かもって思ったけど、あと1歩、足りなかった。たーさんが俺を好きになってくれるまで。あとほんの少し……」
「ど……」
どうして、どういうこと、と多米も言葉を続けようとするが、叶わない。
何故、津麦は時間を巻き戻してまで多米に好きになってもらいたかったのか。
その意図は何だったのか。
混乱する多米の頭で考えても、津麦が多米を好きだからという理由にしか至らない。自惚れではないか。自意識も過剰ではないか。しかし、俄かには信じられないものの、それ以外の理由にはならない。
「どうして、巻き戻るの? 俺もびーさんが……」
と多米は訴えようとする。
だが、多米自身も気づく。
栗田と柿埼のように柿埼が死ぬのとは違うが、多米と津麦も卒業してしまう。多米と津麦の場合は卒業までがデッドラインで、そこまでに適切なフラグを立てることができなければトゥルーエンドには辿り着けない。
そして、あと1歩、そのフラグを立てるには何かが足りなかった。
だから、世界は終わってしまう……いや、世界は巻き戻ってしまうのだと。
「もう1度、俺はびーさんと大学1年の3月からやり直せる?」
あの、尾場ゲームショップで津麦に出会う。
そして、いつか多米が望んだ時のように津麦とゲームして、いつまでもバカみたいに笑える。
かつて多米は確かにそう望んだ。
そう望んだが、今では望んだことすらなかったことにしたい。なかったことにして、目の前にいる津麦と同じ気持ちで同じ時間を生きていけたら……。
でも……それを軽々しく口にしまうのは何だか、津麦に悪い気がする。
何故なら、多米よりも誰よりも津麦自身がそれを世界で1番望んでいるのだから。
「実は後悔してたんだ」
「後悔?」
「うん、びーさんに言えていないことがあったし、やりたかったこともあった」
以前、自分は再生数が24回しかないゲームの実況者だったこと。
もっと早く津麦と出会って、津麦と沢山のゲームをして、沢山の時間を過ごしたかったこと。
3年間という短いながらも濃い時間を過ごすうちに津麦にだんだん惹かれていく自分がいたこと。
本当は津麦を好きだと思っている今の自分の気持ちを消したくないこと。
生命が失われて死ぬ訳ではない。でも、今、抱いている津麦への思いは生まれずして死ぬのも同じだ。
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