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第19話

「時間が巻き戻るということは俺は今の状況を覚えていることはできないんだよね」 「ああ、さっきも言った通り、たーさんと出会わなければ、たーさんは俺が誰なのかも分かっていないみたいだった。分からないまま、卒業して、暫くしてから世界の時間はあの日に戻った。いい加減、俺も諦められれば良いのに」   残酷な言葉が津麦の口からはポロポロと溢れる。  残酷な言葉だが、裏を返せば、多米が津麦に出会うことができれば、多米は津麦を好きになる自信があった。 「……ない」  それは風の中に掻き消えるような小さな声で、津麦はもう1度、言ってくれという意味合いで、多米の名前を呼ぶ。すると、多米は津麦を抱きしめて、言った。  今度ははっきりとした声で。 「諦めたら許さない。世界の時間が巻き戻っても、俺はびーさんと出会いたい」 「たーさん……」 「辛いのに……ごめん。あと、時間を巻き戻すくらい、俺を好きになってくれて、ありがとう」  報われない思いを叶える為に痛みを伴いながらも、何度も世界の時間を巻き戻した津麦が多米に向ける台風の海よりも重く深い愛。  そんな津麦に向けられる精一杯の多米の告白。  その瞬間に世界は非情にも時間が巻き戻されていく。 「うとがりあ、てれくてっなにきすをれお、いらくすどもきまをんかじ、とあ。んめご……にのいらつ」  あまりに愛しくて、哀しい時間は最初から存在しなかったように消える。  だが、世界中で津麦ただ1人だけはその時間を覚えている。  感覚としては夢や妄想に近いが、夢や妄想よりも具体的で、生々しい。夢や妄想と違って、残酷なまでにリアルだ。

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