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第8話 飲み会で
翌日。
約束通り、飲み会は開かれた。
クラスメイトだった2人と、世砂が来ていた。
「やっほー、椋野くん。元気だった? なんか、垢抜けちゃって。やっぱり都会行った人は違うなー」
「おぉう! みんな元気そうだなぁ」
あまり好きじゃなかった気持ちは、久々の再会という喜びに優しく包まれて、溶けて、なくなっていった。
「木村は、中本と結婚式したんだぜ?」
「へぇっ? あの中本?」
「いや、まぁ。年末に子供が産まれます」
「マジかよ……」
木村が頭の後ろを撫でて、溶けそうな表情をしている。
こうやって話を聞くと、本当に長いこと帰ってきてなかったのだと、夕輝は感じた。
積もった話は、尽きることはなくて、ずっと途切れなかった。
それで……蒼空の大事な人は?
ここにいる事を考えると、きっと世砂がそうなんだろう。
夕輝の胸が、何故か、ツキン……と軋んだ。
「ねぇ、蒼空くん、ちょっと」
そんな時、世砂が、蒼空を呼び出すところを、見てしまった。
何かが漏れ出すように、腹の奥底で、もやもやとする。
なんだよ、俺。
その現象に名前が付いてしまうのが怖くて、夕輝はコップをあおっていた。
「ねぇ、ちょっと! あなた達どうなってるのよ?」
「……どうもなってない」
世砂はため息を吐いた。
「あなたも、煮え切らない人ね。さっさと気持ちを伝えなさいよ。見てるこっちがイライラするわ!」
「そんな訳にはいかないだろ。だって、あいつは忘れてるんだぞ? いきなり言ったら、逃げられるかも知れないし……大体、お前が変な事を夕輝にたのむから」
「あーもう! 分かってるわよ。だから、こうして、今でも気にかけてるのよ……」
少し涙目になった世砂を見て、蒼空が口を覆った。
「ごめん」
「いいのよ……悪いのは私だし。それより、いいわね! 椋野くんを、このまま帰しちゃダメだからね」
「それくらいの事は、分かってる」
夕輝には、今日、この後、全てを打ち明けることにしていた。
席まで戻ってくると、夕輝の様子を見て驚く。
「おいおい、飲ませたのか?」
「違う違う。こいつが勝手に間違ったんだって……」
木村と一緒に来ていた、久留岩が首を振っていた。
夕輝は、テーブルに突っ伏し、大きめに開いた首周りから見える白い肌が、今は桜色に染まっていた。
胸元に下げていたネックレスの飾りが後ろになっていて、蒼空は手を伸ばした。
開くようになっていて、中には……写真が入っていた。
「お熱いわね……悩む事ないんじゃない?」
手元を覗き込んだ世砂が、蒼空の背中をバシッと勢いよく叩く。
「ほら、もうこんなだし。みんなもう帰りましょ! 蒼空くん、よろしくね!」
「え? ああ」
手許を見たまま、蒼空は止まっていた。
ネックレスに入っていたのは、自分も飾っている、2人の写真だった。
「ん……」
夕輝が身体を起こした。
酔っているからなのか、自分の気持ちが、そう、感じさせているのか、妙に色っぽかった。
「かえるの?」
「歩けるのかよ?」
トロンとした目で蒼空を見上げていた夕輝が、ふにゃり、と笑うと立ち上がった。
「あっとと、あははは」
大きくよろめく夕輝を受け止めると、熱る体温と、無防備な身体のしなやかさに、鼓動を早くさせる。
すぐ目の前にある、頭のてっぺんから、蒸気して立ち昇る整髪料の匂い。
家までもつかな……?
全てを打ち明けるよりも先に、蒼空は食べてしまいたくなる衝動と闘うことになった。
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