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第9話

遊園地を出る前に慶太はちょっと待って、と土産物屋に入って行った。 なにやらキーホルダーを探している。 「好きな人にお土産?」 「そんなとこ。これがいいかな?」 ピンク色の可愛い、ふわふわしたうさぎのぬいぐるみが付いたキーホルダーだった。 レジに並ぶと、リボンを付けてもらっていて、領収書は切らなかった。 帰り際、花柄で可愛らしい小さな包みを空に。 「あいつ喜ぶかなあ」 やっぱり高校生らしい恋愛してるんだなあ、と思った。 帰宅したら夜9時前になっていた。 「今日は出前かなんかにしようよ」 慶太の言う通り、今から作るんじゃ、10時過ぎてしまうので、2人でポストに入っていたデリバリーのチラシを見た。 「海鮮丼かあ、美味しそう」 慶太に釣られ、チラシを見ると確かに美味そうだ。 互いに海鮮丼としじみの味噌汁を頼んだ。 注文の品が来るまで、2人でテレビを見て寛ぎ、就寝の時間。 互いにスウェットに着替え、ベッドへ。 疲れから俺はすぐに睡魔に襲われた。 ふと喉が乾き、ベッドから起き上がった。 慶太が薄暗闇の中、リビングの真ん中で胡座をかき、遊園地で買っていたうさぎのぬいぐるみのキーホルダーの入った包みを眺めていた。 俺に気づき、慶太が後ろ手に隠した。 「どうしたの?広斗さん」 「いや...喉乾いたからさ」 俺は慶太の前をすり抜け、キッチンに向かうとミネラルウォーターを手にし、飲んだ。 まずいもの見たのかな、と思った。 が、言わなかった。 「...これね、亡くなった妹へのプレゼントなんだ」 微かに口元を綻ばせ、手にした包みに慶太が目を落とす。 優しい眼差し。 「妹...さん...?」 「そう、いないことになってるけどね」 俺は慶太の隣に座った。 「妹は生まれつき難病でさ、いつも鼻に管が通ってた。恥ずかしいから、て人前に出すことは無かった。6歳のときに病気で死んだときも葬儀すらしなかったんだ」 俺は黙って慶太の話しを聞いた。 「当時、俺は10歳で。お年玉や貯金を崩してペットショップで子犬を買ってあげようとしたけど足りなくて。両親に土下座してさ、動物愛護センターで目が合った子をプレゼントしたんだ。友達もいなかったからね、2人はすぐに懐いて仲良しになったんだ。ありがとうお兄ちゃん、て笑顔が忘れられない」 少し切ない、苦しげな表情、俺は黙って聞いてあげる事しかできない。 「妹...明奈が死んだあと、明奈を追うようにケイ...明奈に懐いてた犬も一気に衰えて病気になって死んだ。2人とも葬儀もなく。 犬のケイは墓すらない。 父さんが山に埋めたんだ...」 「ひどい話しだな...」 「だから決めたんだ、動物愛護に取り組みたいし、難病の子供の手助けをしたい」 「NPO法人みたいな感じでか?」 「そう。さすがに難病に取り掛かる医者は無理だから。せめて笑顔になれるようにサポートしたい」 「だったらやっぱり大学行かないとだな」 「...やっぱりそうなる...?」 「うん、本気でやりたいなら」 「本気だよ」 俺はこの日、初めて慶太の頭を撫でた。 慶太の邪気のない思いに胸を打たれた。 「広斗さんは誕生日、いつ?」 「2カ月後だよ、10月7日」 「そっか、お祝いしてもいい?」 俺は思わず笑顔になった。 「ああ。お前はいつ?」 「3月25日、かなり先」 「覚えておくよ」 「本当に?」 「ああ、ご馳走作る、妹の明奈ちゃんと犬のケイの分も」 慶太が顔をクシャ、として満面の笑み、俺まで嬉しくなった。

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