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第11話

朝ごはんはホットサンド、ブロッコリーのサラダ、ソーセージに野菜スープ。 昼はオムライス、ブロッコリー、クラムチャウダー。 慶太は美味しい、と残さず、お代わりしてまで食べてくれるので、元々料理好きな俺も作りがいがある。 「そうだ、妹...明奈ちゃんだったっけ、誕生日はいつ」 「11月2日だけど...?」 「その日はお祝いしよう、嫌じゃなかったら...ご馳走作るしケーキも用意する」 しばらく無言で俺を眺めていた、嫌だよな、やっぱり...。 「嫌なもんか!明奈も喜ぶ、きっと!1度も誕生日を祝ってもらった事ないんだもん...!」 捲し立てるように早口な慶太。 俺はホッとした。 昼飯を食べ、しばらく寛いだあと、2人でDVDを借りに行った。 新作を1枚、旧作を2枚。 帰宅し、慶太はポテチとジュース、俺はコーヒーで一緒に自宅で映画鑑賞。 新作のサスペンスだ。 2人であーだこーだ言いながら画面に食い入っていた。 インターフォンが鳴り、受話器を取ると、昨夜電話してきた裕司だった。 「...なにしに来たんだよ」 小声の俺。 「いいから開けろよ」 「帰れよ」 そんなやり取りしていたら、映画を一時停止していてくれていた慶太が、 「どうしたの?」 「いや...」 俺は受話器を置いた。 再びインターフォンが鳴る。 受話器を取ったが誰も出ない。 まさか、と思い、玄関に向かい、重いドアを開けると裕司だった。 「なんで開けない」 制止したがズカズカと裕司が部屋に乱入してきた。 慶太を見るなり。 「やっぱりな」 慶太は胡座をかき、首を捻り、きょとんと裕司を見上げてる。 「随分、若い彼氏だな」 「そういうんじゃないから」 終わった...と思った。 何も始まってはいないけれど、慶太と過ごす時間が最近はなぜか、とても心地よかった。 「若いとダメですか」 突然、真顔で慶太が口火を切った。 子供や若い、というワードに慶太は過剰に反応するところがある。 「幾つ」 「18です」 「子供じゃねーか」 28の裕司が笑った。 「誰、この人、感じ悪い」 「彼氏は作らない、とか言っといて、このザマかよ」 2人の視線が痛い。 「彼氏じゃない。従兄弟だよ。夏休みの期間、預かってるだけだ」 「預かってる、て...保育所みたいに言わないでよ」 慶太がムッとしているのがわかった。 「そういうのやめようよ、広斗さん」 立ち上がると俺に歩み寄り、顔が近づいてきて困惑しているとキスされた。 「やっぱり彼氏かよ。俺よりこのガキがいいってのか?チン毛も生えてなさそうなガキ」 「生えてます。見せませんけど」 2人は言い争い、結果、慶太に根負けし、 「今日は帰る」 裕司は帰っていった。 俺は立ち尽くしていた。 「ほら、映画、途中だよ、観ようよ」 慶太は気にもとめてない様子で一時停止を解除し、ポテチを頬張った。 「...お前、気にしないのか」 「なにを」 慶太の瞳は画面に向けられたままだ。 「気づいただろ?俺がゲイだって、気持ち悪いとか怖いとか、無いの」 「...怖い?」 慶太が首を傾げた。 「広斗さんを怖いと思ったことは1度もないよ」 俺は呆気に取られた。 「ゲイだから、て。広斗さんの人格を否定するほどガキじゃないよ、俺」 実の両親からは言って貰えなかった、欲しかったセリフ。 無意識に俺の瞳から涙がこぼれ落ちてきた。 「広斗さん、早く...泣いてるの?」 「泣いてないよ」 俺は慌てて背中を向けた。 心配したのか慶太が背中に触れる。 「なんか変なこと言った?傷つけることとか」 慶太の戸惑いが隠せない声に無言で首を横に振った。 口を開いたら嗚咽が出てきそうだ。 中3、15のときに両親から慶太のように言って貰えたらどんなによかっただろう...。 俺は必然的に当時の話し...俺がカミングアウトしたけれど、受け入れて貰えなかったこの9年の思いをぶつけた。 寮に入らされ、余計に男を知る羽目になった事も、入院中、見舞いに行っても顔すら合わせてはくれなかったことも。 「辛かったね...広斗さん...」 慶太が俺を優しく抱き締めてくれる。 「ごめんな、年下のお前にこんな話し...」

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