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戸惑い...

「特に変わりない?」 ベッドに互いにうつ伏せ、肘を付いたまま、慶太が尋ねた。 「なに突然」 明日には慶太が実家に帰る日だ。 「楽しかったよ、凄く」 「そっか、よかった...あのさ」 ふと、慶太が俺を見上げた。 吸い込まれそうな真っ直ぐな瞳。 「...俺って恋愛対象外...?」 俺は言葉を失った。 答えられずにいると、 「仕方ないか、従兄弟だもんね。俺にはどうだっていい事だけど」 慶太は裕福な家庭の息子、父親は有名な議員だ。 正直、戸惑った。 「お前、ゲイなのか...?」 「違うよ。いつか死ぬんだ、てわかったときにね、もし俺が先に死んでも相手が先に死んでも悲しいから。 だから、恋愛はしない、て決めたんだ、でも覆された」 「どうして?」 「広斗さんを知ったから。広斗さんに出会ったから。毎日が楽しすぎてキラキラしてる」 俺も同じだった。 「そういう対象には見れない?」 再度、慶太が尋ねた。 どう応えたらいいかわからず、 「ごめん」 と言ってしまった。 「わかった。大丈夫。俺、明日、朝イチで帰るから」 慶太が背中を向け、おやすみなさい、と言った。 胸が苦しい。 たかが、24歳と18歳、5つの年の差とましてや従兄弟であり、慶太は有名な議員の息子。 現実から目を背けられなかった。 「またな」 「うん」 駅のホームで互いに手を振り、見送った。 それからというもの、慶太との日々を知ってしまった俺は毎日が憂鬱だった。 「美味しい!お代わり!」 毎食、慶太の笑顔と一緒に食べた手料理も味気ない。 慶太と出会う前ならやり部屋に行くなり、セフレに会うなりしていただろう。 そんな気持ちの余裕すらない。 そして、慶太が実家に戻ってから、約2週間後、父の49日が来、法事でまた田舎にある実家に戻った。 俺は慶太の姿を無意識に探した。 ...無い。 俺が来るから、と来る気が失せたのかもしれない。 「遅れてすみません」 お坊さんがお経を唱え、俺たちは静まり返るなか、女性の小声が聞こえた。 女性の後ろに慶太の姿があった。 お母さんの次にお焼香を済ませ、お通夜、葬儀のとき同様、神妙な面持ちだ。 その後は実家で寄り合いになった。 慶太と初めて会った日を思い出しながら、この日も親族に挨拶をして回る。 「広斗さん」 懐かしい声に振り返ると優しく微笑む制服姿の慶太が立っていた。 2人で並び、食事をすると、 「広斗さんの部屋が見たい」 と言われ、俺も9年ぶりに実家の自室に入る。 中学の時となんら変わらない... 狭い部屋でふとベッドに座ると真新しいシーツに気がついた。 9年も部屋を空けていたらシーツはくすんでいる筈だ。 「もしかして...俺がいない間もシーツ交換してくれてたのか...」 シーツを撫でた。 見捨てられた、と思っていた。 違ったのかもしれない。

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