13 / 21

第13話

「特に変わりない?」 ベッドに互いにうつ伏せ、肘を付いたまま、慶太が尋ねた。 「なに突然」 明日には慶太が実家に帰る日だ。 「楽しかったよ、凄く」 「そっか、よかった...あのさ」 ふと、慶太が俺を見上げた。 吸い込まれそうな真っ直ぐな瞳。 「...俺って恋愛対象外...?」 俺は言葉を失った。 答えられずにいると、 「仕方ないか、従兄弟だもんね。俺にはどうだっていい事だけど」 慶太は裕福な家庭の息子、父親は有名な議員だ。 正直、戸惑った。 「お前、ゲイなのか...?」 「違うよ。いつか死ぬんだ、てわかったときにね、もし俺が先に死んでも相手が先に死んでも悲しいから。 だから、恋愛はしない、て決めたんだ、でも覆された」 「どうして?」 「広斗さんを知ったから。広斗さんに出会ったから。毎日が楽しすぎてキラキラしてる」 俺も同じだった。 「そういう対象には見れない?」 再度、慶太が尋ねた。 どう応えたらいいかわからず、 「ごめん」 と言ってしまった。 「わかった。大丈夫。俺、明日、朝イチで帰るから」 慶太が背中を向け、おやすみなさい、と言った。 胸が苦しい。 たかが、24歳と18歳、5つの年の差とましてや従兄弟であり、慶太は有名な議員の息子。 現実から目を背けられなかった。 「またな」 「うん」 駅のホームで互いに手を振り、見送った。 それからというもの、慶太との日々を知ってしまった俺は毎日が憂鬱だった。 「美味しい!お代わり!」 毎食、慶太の笑顔と一緒に食べた手料理も味気ない。 慶太と出会う前ならやり部屋に行くなり、セフレに会うなりしていただろう。 そんな気持ちの余裕すらない。 そして、慶太が実家に戻ってから、約2週間後、父の49日が来、法事でまた田舎にある実家に戻った。 俺は慶太の姿を無意識に探した。 ...無い。 俺が来るから、と来る気が失せたのかもしれない。 「遅れてすみません」 お坊さんがお経を唱え、俺たちは静まり返るなか、女性の小声が聞こえた。 女性の後ろに慶太の姿があった。 お母さんの次にお焼香を済ませ、お通夜、葬儀のとき同様、神妙な面持ちだ。 その後は実家で寄り合いになった。 慶太と初めて会った日を思い出しながら、この日も親族に挨拶をして回る。 「広斗さん」 懐かしい声に振り返ると優しく微笑む制服姿の慶太が立っていた。 2人で並び、食事をすると、 「広斗さんの部屋が見たい」 と言われ、俺も9年ぶりに実家の自室に入る。 中学の時となんら変わらない... 狭い部屋でふとベッドに座ると真新しいシーツに気がついた。 9年も部屋を空けていたらシーツはくすんでいる筈だ。 「もしかして...俺がいない間もシーツ交換してくれてたのか...」 シーツを撫でた。 見捨てられた、と思っていた。 違ったのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!