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第15話

さすがに俺のマンションのときのように、同じベッドに寝るわけには行かず互いに風呂から上がるとベッドの下に、妹から頼み、布団を借りて敷いた。 「一緒、寝ないんだ」 「誰かに見られたらまずいだろ」 「俺さ、広斗さんいなくって、ずっと寂しかった。たった2週間程度なのにね」 顔を見せはせず、枕元を見下ろしたまま、慶太が独り言のように呟く。 「1人でずっと平気だったのに」 慶太がそう呟き、ハッとした。 俺も同じだ。 慶太に出会うまで、誰も愛さず、愛されず、1人で生きていきたい、そう願っていた。 「お前も同じだったのか...」 「友達、て呼べる相手もいないよ。昔はいたんだ、けど、合わなくってさ。周りが子供みたいで。浮いてる自分に気づいて、それからはずっと1人」 不意に慶太の凛とした瞳とベッドで横になっている俺が目が合った。 「広斗さんも似た感じ?」 なにも言い返せない。黙りこくった。 「境遇は全然、違うけど、少し似てるかも。広斗さんと俺」 「...そうか?」 「そう思いたい」 抱き締めたい衝動を抑えた。 まだ頼りなげな背中をギュッと抱き締めてあげたい気持ちを堪えた。 「約束は守るよ。守りたいし、守らせて欲しい」 「約束?」 「お前...慶太と明奈ちゃんの誕生日を祝わせて欲しい、あと、ケイも」 しばらく俺を無言で眺めた後、 ありがとう、と慶太は温かく優しい笑みで頷いた。 朝。 慶太が先に起きていて、朝食らしいよ、と声を掛けてくれた。 妹やら親戚や叔母などの作ってくれた朝食を平らげると、慶太を車で送ることにした。 車に乗ると、慶太はCDケースを漁り、海の日に聞いた、バンプのアルバムをかけた。 互いに長いこと無言だった。 慶太は外の景色を眺めてる。 「次のインターチェンジで飲み物でも買うか」 高速を使い、約2時間ちょいかかる。 相変わらず、慶太は自分の財布から飲み物を振舞った。 「お腹は大丈夫?減らない?」 「いいよ、俺に奢らせろよ、たまには」 「ダメ。俺のお嫁さん候補なんだから。レディファーストでいかなくちゃ」 唇を尖らせる慶太に俺は思わず笑った。 「お嫁さん候補?」 「料理も上手いし。家事全般、得意だし。理想的」 慶太は笑われたことを気にとめることなく、出店で、 「何がいい?」 と聞いてきた。 「焼きそば」 「じゃ、俺、たこ焼きにするから。半分こしよっ」 それからは窓越しに映る慶太は表情が豊かで笑顔だった。 ナビに住所を打ち込み、辿り着いた慶太の実家の豪邸を見上げた。 「何階立て?」 「3階だけど。上がってよ」 「いや、もう夜も遅いし」 「だからだよ。こんな遅くに危ないでしょ」 豪華な玄関を開けるとこれまた広い空間と長い廊下があった。 「みんな寝ちゃってるみたい、静かにね」 なるべく音を立てないように慶太の後を追い、3階に着いた。 奥の部屋が慶太の部屋らしい。 ドアを開けると俺のマンションと同じくらいの広さに唖然とした。 慶太は内鍵を閉める。 「シャワー浴びたかったら浴びてきていいよ」 「何処にあるの」 慶太が指差した先は慶太の部屋の奥。 「湯船、お湯張ろうか」 そう言って、だだっ広い部屋を横断して消えた。 「防音だし、この階には俺しかいないから気楽にしていいよ、お、アキ、元気してたか」 ラブラドールレトリバーと子犬の柴犬、1匹の キジ柄の猫が慶太に擦り寄ってきた。 「ちゃんと餌はもらったか?うん?」 「慶太の部屋で飼ってるの?」 「そう。両親共に動物嫌いでさ。俺がいないときは家政婦さんがこっそり世話してくれてる」 すっかり懐いて擦り寄る犬たちを撫でながら笑顔の慶太。 よくよく見るとソファの上に2匹の猫もいる。 壁に貼られたコルクボードの数枚の写真を見た。 鼻に管を通されているが満面な笑みの女の子とまだ幼い慶太が子犬を挟んで笑っている。 この子が明奈ちゃん...。 その下のテーブルには、花が一輪と遊園地で慶太が購入した、うさぎのぬいぐるみのキーホルダーが包装されたままで置いてある。 俺は無意識に手を合わせた。 すると、突然、後ろから慶太に抱き締められた。

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