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失踪
「良かったのか?これで」
服を着たまま、ベッドの上で俺たちはうちのマンションの部屋の天井見上げてる。
「構わないよ。一昨日さ、父さんに議員になれ、言われた。やなこった」
「俺んちいたら探し当てられるんじゃないのか」
「大学は行きたくない、議員にもなりたくない、用無しの俺を探すほど暇じゃないよ」
グルッと体を勢いよく反転させると、
「このまま一緒に暮らそ!」
明るく慶太が言った。
「夢はどうするんだ。明奈ちゃんやケイを見捨てるのか」
「そういうつもりはないよ、ただ...」
「ただ?」
「今はただ、一緒にいたい。て、駄目かな」
真っ直ぐだけど、今にも泣き出しそうな瞳を見つめ返した。
「今はなにも考えたくない。広斗さんの手料理が食べたい」
「腹が減ったのか?」
「そういう意味じゃないよ」
と、口元を緩ませた。
慶太が寝ている間、ほぼ手ぶらで飛び出した慶太のために、クローゼットから慶太に合いそうな服を選んだり、冷蔵庫と冷凍庫の中身を確認した。
しばらくの食材はありそうだ。
隣に並んで横になり、慶太の寝顔を間近で眺めた。
起きるなり、慶太は突拍子もない事を言い出した。
しばらくの貯金もあるけど、バイトする、と言い出したのだ。
「お前は高校行かなきゃだろう」
「制服、持って着てないよ」
「だったら買えばいい。買いに行くか?」
慶太は黙りこくった。
高校を中退させる訳にいかない。
昼ごはんを食べ終えると、慶太の高校の制服を購入し、貯金も一部、おろした。
「だったら、週3...いや、週1、2でいい、夜バイトする、それなら構わないでしょ?」
慶太の意志の強さに根負けし、親に頼る事が出来なくなった慶太は、週2のペースで近所のコンビニでアルバイトを始めた。
水曜日と土曜日、19時から0時までの勤務だ。
必然と週2日の夜は寂しいものになった。
しばらくは今までと変わりなかったが、半月後、俺たちは初めて大喧嘩をした。
高校を辞めて正社員で働く、と言い出したのだ。
なんでも、俺に金を出させるのが嫌だという変なプライド。
「言っておくけど、俺は女じゃない!慶太に養って貰うつもりもないよ!」
「働かなくていい!広斗には家にいて欲しい!食事作って、帰宅したらいつもいて、笑顔で出迎えて欲しい」
「頼むから学校は辞めないでくれ」
真っ向から俺たちは対立し、殆ど口もきかなくなった。
食事の際ですら。
そんな時に事件は起きた。
慶太が帰ってこない。
拗ねてネカフェにでもいるのだろう。
ところが1週間が経っても慶太は帰っては来ず、連絡も無かった。
さすがに心配になり、慶太のスマホに連絡を入れた。
電源が入っていない。
愛想つかして帰った...とも思えない。
俺は慶太がバイトしているコンビニに出向いた。
「ああ、慶太くんね。無断欠勤していてね。あんなに笑顔で頑張っていたのに、どうかしたの?」
コンビニの店長も不審がった。
やっぱり、さすがにカミングアウトしたようなものだ。
実家に帰ったとは思えない。
何処からどうやって慶太の行方を探したらいいのか...。
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