11 / 53
第11話
居なくなっていればいいのにと思ったけれど、天海がリビングに続く扉を開けた時、織部はまだそこにちゃんといて、勝手にテレビをつけていて、天海が絶対に見ることのないバラエティー番組を見て、けらけら笑い声を上げていた。天海にはそれが不思議で、リビングの扉の前でひっそりと、織部の後頭部を眺めていた。ややあって織部が人の気配に気づいてこちらを向く。その頬は幾分か赤くなっているような気がした。天海が近づくと、ガラスのテーブルの上にはビールの缶が二缶空いていた。天海がそれを持ち上げると、ちゃんと中身がなくなっている重さになっていた。それを見て織部が笑う。
「なにやってんの、天海さん」
「お前がちゃんと飲んだかチェックしてる」
「だから、なんなんだよ、それ」
言いながら織部は笑って、天海のバスローブの紐を引っ張った。紐は解けずに、逆に天海の腰の低い位置でぎゅっと締まった。
「こんなん、家にあるなんて、ほんと天海さんえろいなぁ」
「こっち来い」
紐を織部の手からするりと抜くと、天海は寝室の扉を開けた。バーで引っかけた男を家に連れて帰るほど、危ない橋は渡っていないので、ここではひとりで寝ることの方が多かった。それなのにそこにはキングサイズのベッドが鎮座していて、天海はその言い訳を誰にするわけでもなくひとりで考えた。扉を開けたまま振り返ると、織部はぼんやりした目でそこを見ている。
「帰るなら今だぞ、中に入ったら帰してやらないからな」
「・・・何それ、すげぇ口説き文句」
目元の赤い織部はくすっと笑って、天海の手を後ろから握った。
「連れてってよ、天海さん」
「・・・―――」
天海は黙ったまま寝室に入って、その天海にくっつくようにして織部も中に入った。電気がついていないせいで、そこはリビングに比べるといくらか暗くて、天海の現実検討のレベルを下げる。くるりと振り向くと相変わらず織部は笑っていて、目が合うと天海の肩に手をやって、顔を寄せてきた。それにキスしてやれば良かったのか、一瞬だけ迷って天海は身を引いた。
「・・・なに、天海さん」
「座れ」
「座るの、ってか、俺風呂入ってないけどいいの、天海さん潔癖でしょ。部屋こんなきれいだし」
「いい、その方が興奮するから」
暗がりに織部が、まるで天海が何を言っているのか分からないみたいに、目をぱちぱちと瞬かせた。幾ら待っても座らないので、天海は織部の腕を引いてベッドに無理矢理座らせると、足を開かせ、天海は織部の足の間に座った。そしてベルトに手をかけてそれを外した。
「ちょ、ちょっと、待ってよ、天海さん・・・」
「なんだよ、もう待たない」
言いながら天海はベルトを外して、スラックスのジッパーを下げると簡単に織部のものを下着から出して、そしてそれを織部が止める隙を与えずにそのまま咥えた。
「いや、ま・・・って、よ」
織部は一応そうやって抗議をしてみたけれど、一度それを咥えた天海はもう何も言わなかった。同じ男だから何となく気持ちのいいところは分かるし、そこを上手く刺激すれば簡単に勃つのは分かっていた。例え、それが男に咥えられていたとしても、刺激にはなかなか抗えないのだから、浅ましい。考えながら織部のものを口に含んで、ちらりと天海は織部の顔を見上げた。赤い顔をして、織部はまだ戸惑ったような表情をしている。でも口の中のものはちゃんと反応しているし、悪くはないのだろう。
「あま、み、さん、ちょ・・・一旦、はな、して」
「なに、リクエストがあるなら聞くけど」
一旦口から抜くと、先走りで口の周りがずるずるに濡れている。それを指ですくってぺろりと舐めると、織部の体が分かりやすくびくりと波打ったのが分かった。
「いや、いきなり・・・咥えないでしょ、フツー」
「なんだ、お前の彼女は誰もフェラチオはしないのか」
「いや、天海さんの口からフェラチオなんて単語が・・・うわー、すげぇ」
「話を聞けよ、いや、もういいか」
面倒臭いし、と思って天海は邪魔な横の髪の毛を耳にかけると、半分くらい勃ち上がっている織部のそれを、もう一度口に含んだ。天海は比べる相手がいないのでよく分からなかったが、男は大抵天海がするのを喜んでくれたし、上手いと何度も褒められたことがあるから、それにはある程度自信を持っていたのだけれど、それがストレートの織部にも通用するのかどうか、それは正直やってみないと分からないと思っていた。けれどこうしてちゃんと反応しているところを見ると、自分相手にあれだけ啖呵切っただけはあるなと思いながら、天海は静かになった織部のことをちらりと見やった。
「・・・あまみ、さん、俺、もう、あんま、もたな・・・」
「一回くらい出しとけば」
「や、それも・・・いいけど、天海さんもこっち来てよ、俺も触りたい」
「・・・―――」
天海は赤い顔をして天海の方に手を伸ばす織部のことを見ながら、少しだけ考えた。そういう回路が織部にもあるのが不思議だった。自分は男で、女のように柔らかい肉体では決してないのに。考えながらバスローブの紐を自分で引っ張ると、ぎゅっとそれがまた締まって、天海は自分は何をやっているのだろうと我に返った。そしてバスローブから手を離すと、織部のものをもう一度口に入れた。
「うわっ、ちょ・・・あま、みさん・・・」
「いいはら、はしとけ」
「しゃ、べんな・・・い、でよ、もう・・・っ」
先走りをじゅるりとわざと音を出して吸うと、織部のベッドの端っこを掴んでいた手が微弱に震えて、あ、と天海が思った瞬間に、口の中で織部が果てたのが分かった。零さぬように唇と舌を使って、上手にそれを抜いたつもりだったけれど、ぱたぱたと口から飲み込み切れなかった精液が、天海の着ているバスローブやら床やらに落ちて、天海はそれをいつもやっているみたいに指ですくって口に入れた。精液は誰のものを飲んでも苦くて不味かったけれど、頭の回転を鈍らせるためのパフォーマンスとしては最適だった。
「・・・あま、み、さん・・・ほんと」
「なんだ、流石に、逃げたくなってきたか」
「・・・はは・・・、まぁ・・・そうだな、怖いよ、アンタ」
「もう、出られないけどな」
ふっと天海が立ち上がるのを、織部はぼんやりした目で追いかけた。
ともだちにシェアしよう!