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第12話

まだ赤い顔をして、織部は首を傾げるような仕草をした。 「逃げないって、こんなとこで」 「・・・」 「こっちきて、天海さん、俺にも触らせてくれるんでしょ」 天海はそれには答えなかった。手を伸ばして織部のネクタイを掴むと、ノットのところに指を突っ込んで、それを器用に外してベッドの端に投げる。それを織部が何となく目で追っている間に、ボタンを外していると、織部の目はすぐに戻ってきて両方の肩を手で掴まれた。 「だから、天海さん、なんでそんな、全部するなよ」 「お前こそノンケのくせに俺に触りたいとか良く言えるな」 「・・・触りたいのを触りたいって言う事の何が悪いんだよ、っていうかもうノンケっていうのなしにして」 「なんだ、それじゃあ、お前、ゲイなのか」 それに返事が出来ずにぐっと唇を噛んだ織部のことをそのままベッドに押し倒すと、天海はそのままベッドに乗り、織部の上に跨った。どうしてやるのが一番いいのか、これでも天海はちゃんと考えていた。一応、こんなことまでしておいてまだ一応、天海の中には織部は会社の人間で、天海の天海である時間を知っているからということもきっと、天海にこんなことをさせている理由になった。他の男には滅多にしてやらないのだから、これは完全にサービスなのだから、ごちゃごちゃ言うのはもうやめて欲しい、と思ったけれど、見下げる織部はまだ何か不満があるのか、不服そうな顔をしている。 「・・・それは違うと思うけど、ってか、騎乗位?はじめてなんだからもっと別のが良い」 「却下、お前は寝てろ」 「なんだよ、それ。これじゃどっちが抱かれてるのか分かんないじゃん」 「・・・安心しろよ、最後は挿れさせてやるから」 天海はそう言いながら、半分体を起こそうとした織部の肩をとんと突いた。そんなに強い力ではなかったけれど、織部はそれにはそれで納得したのか、大人しく体を寝かせた。何にもしていなくても勝手に締まっている体は、多分彼が若いからなせる技なのだろうけれど、それでも少し羨ましいと食べても食べても全く太る気配のない自身の体を思い出しながら、天海は体を折って織部の鎖骨を舐めようとしてはたと気づいて、さっと体を引いた。織部は不思議そうな顔をしている。 「・・・天海さん?どうかした?」 「・・・いや、別に」 これは大丈夫かとか気持ち悪くないだろうかとか、いちいち考えなければならないのが面倒だった。いつもみたいにはいかないから、やっぱり織部はどう考えてもいつもバーで遊んでいる男たちとは違った。根本的に何かが違った。でもその時、天海はそれが何かを考えるのを止めた。織部の締まった体は、天海を興奮させる材料にはなったが、性的ではない愛撫に意味があるのかどうかよく分からなくなってきて、それならばもういっそ、もっと直接的であるほうが双方分かりやすくて良いと思って、先程口に含んだばかりの織部のそれに手を触れた。織部の体がびくりと天海の下で跳ねた。 「あまみ、さん、また、それ」 「・・・なんだ、嫌なのか」 「じゃ、ないけど、天海さん上手いし・・・でもなんか、キスとか、しようよ、もっとさぁ・・・っ」 「女みたいなこと言うなよ、面倒臭い」 そう言うと、織部がはは、と笑い声を上げて、天海は体がぐらぐら揺れるのが分かった。若さは凶器みたいに鋭く尖って、天海を貫く準備が出来ている。若いと回復が早くて良いなと思いながら、天海はバスローブの紐にもう一度手をかけて、引っ張った。今度はそれが締まらないで、するすると解けた。ぼんやりした目で織部がそれを見ている。腕を抜かないまま肩だけ肌蹴させると、織部の手がそれをじれったそうに引っ張った。そんなことをして暴いても同じ男の体なのに不毛だと思いながら、織部の手のしたいようにさせてやって、天海はバスローブが自分の体からどんどん剥がれていくのを見ていた。 「・・・痩せてんね、天海さん」 「体質だ、好きで痩せてるわけじゃない」 「考えてたんだ、俺ずっと。天海さんの側通る時に、このひとの服全部剥いてみたいって」 「・・・ふーん」 「なにそれ、もっと嬉しそうにして。折角告白してるのに」 「告白?」 聞きながら膝で立つと、風呂場で仕込んだローションが後ろの孔からとろりと出てきて、天海の太ももを伝った。すっと織部がそれを目で追いかける。 「なにそれ」 「ローション、変なもんじゃないから安心しろ」 「なんだそれ、準備したのかよ、ひとりで?」 「こんなところに指突っ込むつもりだったのか、お前」 天海が自分で自分のそこに指を入れると、入口が広がってまたローションがどろりと零れてきた。あんまりすると用意したものが全部出てきてしまうと思って、それを抜く。 「・・・すっげ、えろいけど。でも俺も突っ込みたかった」 「これから突っ込むんだろ」 織部の上を向いた性器を入口に宛がうと、天海は体を揺らしながらそう言った。織部は顔を真っ赤にして、ははっとまた笑う。 「天海さん、アンタがえろいのよく分かったから、今度は俺にもさせてよ、したい」 「・・・今度はないよ」 「え?」 「息吐け、挿れるぞ」 こういう時多分、そういう事を言うのは挿入する側なのだけれど、と思いながら、天海は入口を自分で広げてぐっと体重を織部にかけた。体積の大きいものがそこから押し入ってくる。男のものを咥えこんできたそこは、大した苦労もせずにもうそれを飲み込む準備が出来ている。そういうことが多分いちいち、織部には分からない。分からなくていいのだけれど、それを説明するのは面倒臭い。天海は何も考えなくていいから、何も考えたくないから、ただそれだけの理由でセックスをしている。でも織部とセックスをしようと思うと、余計なことを考えてしまう。奥歯を噛んでできるだけ頭を空っぽにする努力をした。根元までずぶすぶと簡単に飲み込むと、ひとつゆっくり息を吐いた。慣れはするけれど、この圧迫感はなんとも形容しがたい。 「・・・す、っげ、全部、はい、った」 「・・・ん」 「あ・・・ってか、あまみ、さん。ゴムしてない、けど、俺」 「・・・きもちわるいか」 「いや、別にそう、じゃないけど」 「じゃあ、いい」 「いいって、よくない、だろ」 なんだかそうやって、天海のことを変な角度で心配する織部のことが、天海にはよく分からなかった。これから先の快楽に、そんな余計な感情は無駄なだけだった。 「いいよ、腹いっぱい、出して」

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