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Sweet Baby Doll Ⅲ

天海がベビードールの薄い生地を引っ張って、体を捩る。やっぱり胸囲がどう考えても天海のサイズに合ってないし、締め付けられて苦しいのだろうなと、天海の右足を持ち上げながら考える。 「織部、オイ、挿れるまえに脱ぐ」 「だめ、最後まで着といて。それに天海さん、苦しいの好きじゃん」 「・・・―――」 それは否定しないのかと思って、ショーツを脱がさないまま少しずらして、天海のローションでぐずぐずに濡れたそこに自分の勃起したものを宛がうと、そのまま一気に突っ込んだ。息が止まる。男のものを飲み込むことが特に苦にならないくせに、そこはいつも狭くて織部は拒絶されている気分になる。天海の細い喉が震えて、半開きになった口から赤い舌が覗いている。真っ白の肢体はどこか妖艶な薄っすら赤色に染まっていて、それがメルヘンなピンク色と全くそぐわないでいることが、織部の頭の中を一瞬だけ冷ましている。 「あっ、あ、んん・・・―――」 「かわい、あまみさん、ほんとにあってるよ」 「んっ、や、お、く」 「奥ね、んっ」 やっとほしいものが手に入った天海は、自分の話をきっと聞いていないんだろうなぁと思いながら、天海の言うように奥を突いてやると、ぎゅっと中が締まった。 「ん、ほんと、かわいい」 「あっ、あっ、もっと」 「聞いて、る?あまみ、さん」 「あ、やっ・・・ふか・・・っ―――」 セックスしている時だけ、天海はその表情を幾分かだらしなく緩める。この顔は今は自分のものなのだと思うと、織部は少しだけ安心する。過去に何人も見ていたとしても、今の瞬間は自分のもので間違いないのだ。天海がふっと手を伸ばして、ショーツの端の紐を引っ張った。胸囲もきつければ、そっちも苦しいのだろう。天海のそれは勃ち上がったまま、だらだらと先走りを零している。 「これっ、取って・・・ぁっ」 「だめ、女の子みたいに後ろでイッて、あまみさん」 「んん、っ、くる、し・・・っ」 「はは、とくい、じゃん」 それにそれを結ばせたのは天海だ。自分なんかに結ばせなければ、引っ張ればすぐに解けたかもしれないのに、天海が無茶苦茶に引っ張るせいできつくショーツが食い込んで、状態は悪くなる一方だった。いつもの無表情からは想像できないくらい、頬を上気させて目を潤ませる天海が、それをまた懲りずに引っ張るのを、織部は口の端だけで笑った。セックスの時だけ、天海は素直だった。 「あっ、やぁ・・・っ、もう」 天海の声が一層甘くなるのを聞きながら、一番深いところまでそれを押し進めると、織部は体を折って、半開きで酸素を欲しがっている天海の唇にキスを落とした。 「跡ついちゃったね」 真っ白の天海の背中を横切るように、赤い跡がついている。それを寝ころんだまま右から左に指でなぞると、ベッドに座ったままタバコを吸っていた天海がふっとこちらを振り返って見た。相変わらずセックスの後はすっきりした顔をしている、と思う。 「別に、すぐ消えるだろ、こんなの」 「んー、でも、天海さん体綺麗だからさ、跡になんのは俺が嫌だな」 「・・・―――」 にっこり笑って織部が言うのに、興味がなさそうな顔をして、天海はまたふっと視線を元に戻した。それに合わせて煙が形を変えていく。 「一応、プロに相談したんだけど、やっぱり天海さんも男だなー、サイズぴったりなのなかなか難しい」 「・・・お前こういうのが好きなのか」 「え?いや、特別そういうわけじゃないけど」 「だろうな、お前、ノーマルだもんな」 (うーん、なんか馬鹿にされてる気がする) 天海の言うノーマルが褒め言葉なのか何なのかよく分からなくて、織部はそれに何とも言えずに黙っている。天海は毎回違う男と、一体どんなセックスをしていたのかなんて、そんなこと気にはなっても聞かないほうがいいに決まっていた。頭では分かっていてもこういう時、織部はそれを天海に向かって問いかけてみたくなるのだ、虚しくなるぎりぎりでいつもブレーキをかけているが。 「天海さんは着たことあんの、こういうの」 「あるわけないだろ、俺にこんなもの着せて喜んでるのはお前くらいだ」 「・・・へー・・・意外・・・天海さんもやったことないプレイとかあんだね」 「お前俺のことなんだと思ってるんだ」 「べっつにー、そっかー、はは」 だるい体をゆっくり起こして、織部は天海の口から短くなったタバコを抜き取って、ベッドサイドに置かれた灰皿に放り込んだ。天海は手の中にあるピースの箱をとんとんと叩いて、二本目を出してそれを銜えている。天海がそれに火をつける前に、後ろから腕を回して抱き締めると、危ないとでも思うのかそれとも他の何かなのか、天海は近づけたライターをまた膝の上に戻した。 「じゃあ、俺、天海さんの初めての男だ」 「・・・―――」 天海はその時何も言わなかったけれど、織部は別にそれに答えが欲しいわけではなかった。 「いやー、どうだったかなぁって俺、ずっと心配してたんだよー」 「まぁまぁ着れたんですけどね、やっぱ胸囲がきつくって、最後のほうちょっと痛かったよね、天海さん」 振り返った織部ににっこり笑われて、天海はそれに何と言っていいのかよく分からなかった。その隣では土岐田がにこにこ笑っている。 「・・・なんで、トキ」 「あれぇ?ウミちゃんに言ってなかったけ?俺今、レディースの下着開発の部署にいるんだよ」 「そ、プロのひとに相談したって言ったでしょ、俺」 そう言いながら土岐田を指さす織部は、相変わらずにこにこ笑っている。その横で自分だけが何も知らなかったみたいで、天海は少しだけ気分が悪かった。土岐田の仕事については、天海も深く自分のことを語らなかったみたいに、土岐田もそうだったから、はじめの頃に業種くらいは話したかもしれないが、今となってはよく覚えていなかった。それにしても自分の知らないところで、第一印象はお互いに散々だっただろうはずの、織部と土岐田がこんな風に仲良くしているなんて、全然知らなかったのだが、それに疎外感を覚えたほうがいいのかどうか、天海はやっぱり分からなくてピースのフィルターを噛んでいる。 「ピンクがよかったでしょ、やっぱり」 「ピンクがよかったっす、えろくてやっぱり!」 「だよねぇー、ウミちゃんブルーも似合いそうだったんだけど、やっぱりあのメルヘンさが出るのはピンクかなぁって。背徳感もあるしねぇ、ブルーもいいよ、ブルーも爽やかでいいんだけどね、あと、イエローもあるんだよ。イエローはちょっと明るいイメージだもんねぇ。あ、写真とかないの?」 「あるか」 「天海さんが照れちゃって、俺以外には見られなくないって・・・」 「そんなこと言った覚えはない」 緩んだ顔で喋り続ける織部を牽制するつもりで、天海はそう言ったけれど、それが織部に利いているとはとても思えなかった。 「そっかぁ、でも胸囲ねぇ。そういう店に行けばさぁ、男用のそういうのも売ってるとは思うんだけど」 「でもそれじゃ夢がないじゃないですか、天海さんもそう思いません?思うよね?」 「知るか」 もう二人の話に付き合うのは馬鹿らしかった。どうでもいいと思って、天海は目の前に置かれたジントニックを一気に飲み干した。 fin.

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