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サイハテトレイン Ⅲ
天海のそこは指一本くらいなら慣らさずとも入ったけれど、その時も違和感なく織部の指を飲み込んだ。奥に指を進めると、指先に濡れたような感覚があって、なんだか可笑しいなと思った。ふっとガラスに映る天海を見ると、真っ赤に上気した頬をして、袖口を噛んで声を殺している。眼だけがきらきらと必要以上に濡れていて、それはたぶん織部もよく知っている眼だった。
「ちょっと天海さん、もしかしてアンタまたローション・・・」
「んっ」
「・・・勝手な」
眉間に皺を寄せてちょっと怒った顔をすると、天海のそこはきゅっと締まって、織部の指をぎゅうぎゅうと締め付けた。多分ちょっとM入ってるよなと、それを見ながらいつものことのように思う。元より中まで指を突っ込まれる算段だったのかどうか、後で天海に聞いても多分、はぐらかされて終わりだろう。ということは痴漢にこんなところまで触られていたのかと思うと、昔のこととは分かっていてもゾッとする。
(ほんとにもう、マジで、ムカつく)
ぐっと指を進めて、後ろからでは上手くは擦れないが、天海の前立腺があるらしいところをぎゅっと指の背で押すようにすると、天海の体が二つに折れて、ずっと天海の体を支えていた手が、もう力が入らないのか、窓をひっかくみたいに滑り落ちていく。
「っつ、ぁ」
「天海さん、声」
後ろから抱えるように天海を抱いて、耳元で囁いたが、それが天海に聞こえているかどうか分からなかった。ぐっと天海が上げた顔は、頬は真っ赤に染まっているし、口は辛うじてまだシャツの袖を噛んでいたけれど、それは唾液でドロドロになっている。眼は潤んでとろとろに蕩けているし、どう考えてももう限界だった。その時、織部の頭上で次の停車場所が近づく電車のアナウンスが聞こえた。
「天海さん、もう、次降りるよ」
「・・・―――」
天海はもう声も出ず、首を動かすこともせずに、織部に半分以上体を預けたまま、そこにふらふらになりながら立っていた。ややあって電車が止まり、扉が開く。転がり出るようにホームに出たものの、この先のことなど考えていなかった。すると迷う織部のトレンチコートを誰かが引っ張った。
「・・・こっち」
蕩けた目のまま天海が言う。ふらふらの足取りで、それでも器用に行き交う人にぶつからないように、天海は織部のトレンチを引っ張るように駅の奥へと連れていく。そして案の定、トイレに引っ張り込まれると、織部が誰か他にいないのかときょろきょろしている間に、どこにそんな力が残っていたのか分からないが、個室へとぶち込まれた。キイと立て付けの悪い扉が閉まる音がして、織部は顔を上げた。
「・・・あまみ、さん」
「・・・―――」
「ごめ、・・・やりすぎた?とめてよ、俺加減分かんないってい・・・っ―――」
荒い息のまま、天海は織部の胸元を掴むと、そのまま少し背伸びをして織部の唇に噛み付くみたいにキスをした。織部が何でこんなことになっているのか、全く状況が読めないで、目を白黒させている間に、織部の口内を散々甚振った天海の舌が急に出ていく。
「・・・あまみ、さん」
「最後まで、する、だろ」
「・・・う、うん・・・」
ぺろっと天海が唇の端を舐めて言う。まだ状況が掴めないで、掴めないなりに織部が頷くと、天海は黙って床に膝立ちになり、織部のベルトをいつもみたいに手際よく外して、そのまま下着の中から勃ち上がりかけている織部のそれを取り出した。
「男のケツに指突っ込んで、こんなにガチガチにできるんだから、お前も立派な変態だな」
「・・・だって天海さんがえろいから」
ふっと一度息を吹きかけて、天海はそれには答えずに根元まで一気に銜えこむ。両手も器用に使ってちょっと触られただけで、織部のそれは天海の思惑通りの形になる。先走りを舐め取りながら、天海はまだ少し名残惜しそうに、それから唇を離した。
「後ろ向いて、天海さん」
「・・・ん」
「外だからゴムつけるよ」
黙ったまま天海は立ち上がると、織部の言う通り後ろを向いた。さっきと同じだと思ったけれど、さっきとは多分全然違った。天海のスラックスのジッパーを後ろから下げると、すとんとそのまま何の引っ掛かりもなく、それは足首まで落ちる。下着をずらすと、きっと天海が事前に慣らしておいたのと、さっきまで織部が指を突っ込んでいたせいで、そこはすぐにでも織部のそれを銜えたそうにしていた。
「・・・明るいとこで改めて見るとえっろい」
「はやく挿れろ」
「はは、ごめん、そうだよね、天海さん指なんかじゃイけないよな」
天海の細い腰を掴んで、ゆっくり押し入れようとすると、思ったよりそれは簡単に拡がって、織部のことを飲み込んでいく。
「あっ、ああっ、ん」
「は、やばい、あまみさん、俺の形に拡がりすぎでしょ・・・」
「んっ、はや、く」
腰を揺らして天海が言う。分かってるよとそれに返事をするつもりで、根元まで挿し込むと、天海の頼りない足ががくがくと震えた。
「あっ、ん、っ」
「天海さん、さぁ・・・痴漢にあんな、こと、させてた、わけ」
「んんっ、あ、いい、そ、こっ・・・」
ずずっと中から抜くと天海の声が一層甘くなって、天海の理性はもうぶっ飛んでいるのだろうが、こっちの理性もぶっ飛びそうになる。
「あんな、トロ顔させて、えろい声だして」
「んっ、あっあ・・・もっと、ん」
「みんな、あまみさ、んのこと、っ、見てたよ」
「あっ、あっ、いい、それっ」
一応周りにはばれてはいないはずだと思いながら、織部は少しだけ過去の天海を咎めるつもりで、そう嘘を吐いたけれど、快楽が欲しいだけの天海にそれが聞こえていたとは思えない。ガタガタと急に狭い個室の壁が何に当たったのか音を立てる。
「あま、みさん、声、っ、ちょっと、おっきいって、ば」
「あっ、んん―――っ」
後ろから手で口を塞いで、天海の一番深いところを突き挿すと、天海は息を止めるみたいにそのまま果てて、ややあって織部も天海の中で射精した。熱くなった呼吸が、やけに耳元で聞こえる。天海の口から手を放して、ゆっくりそれを天海の中から抜くと、ふっと天海が振り返ったのと目が合った。何か言われるかなと、一瞬思ったけど、もう何を言われても良かった。けれど天海は何も言わずに、そのまましゃがんで織部のそれからゴムを抜いて、そしてぞんざいに床に放った。
「・・・なに・・・?」
天海は黙ったまま、さっきしたみたいに一度果てて萎えているそれを口に含んで、まとわりついた精液をじゅるじゅる音を立てて、多分わざと立てて、吸い始めた。
「ちょ、ま・・・って、あまみ、さん」
「・・・お前、なんでゴムなんて持ってるんだ。いつもしないだろ」
「や・・・だってまぁ・・・まぁ、こういうこともあるかもって、一応。それに外で中に出されて、困んのそっちじゃん・・・」
「余計な」
「へ?」
それきり黙って、天海はまた音を立てて、織部のそれを口に入れて吸い始めた。何がなんだか状況がよく分からない織部は、力なく天海の肩を押して拒否しているつもりだったが、こうなった天海がそれを簡単に離さないことは、経験上分かっているつもりだった。
「ちょ・・・そんな、吸ったら、また勃つ・・・!」
「そしたら、また挿れればいい。中で出されないとした気にならないんだよ」
「・・・アンタよくそれで今までビョーキもらわなかったな・・・こええ・・・」
それで怒っているのかと、織部はやっと訳が分かって少しだけほっとした。とりあえず天海が口を放してくれたので、引っ張って立たせて、正面からぎゅっと抱き締めた。それでまたもう少しだけほっとした。もうしばらく変なプレイはいいと、懲りた織部はひとりで反省しながら思った。けれど天海はまだ思うところがあるらしく、左手で織部のそれをいじいじと触っている。
「・・・あまみさん、ほんとに勃つから・・・もうやめて・・・」
「お前、まさかこのまま帰る気じゃないだろうな」
「・・・え?なんかあるんすか、この後」
もうシャワーも浴びたいし、疲れたし、早く横になりたい織部は、反射的にそれに聞き返してから後悔した。
「ここ、こんなに腫らして、このまま家に帰れるのか、すごいな、尊敬する」
「・・・アンタがそうしたんだろ・・・っつかもう、ここどこの駅かも分かんないし、天海さん家も俺ん家もどっちも遠くね・・・?」
「安心しろ、駅前にホテルがあるからそこ行くぞ、外じゃなきゃゴムなくてもいいんだろ」
「ぜんっぜん安心できねぇ・・・なんで見知らぬ駅の駅前にラブホがあるの知ってんの、天海さん・・・」
天海はそれには答えないで、その段になってやっと織部のそれから手を放して、トイレットペーパーで手を拭きはじめた。織部はその横顔を見ながら、小さく溜息を吐いた。自分からはじめたことだけど、こんな風に訳の分からない切なさみたいなものを、まさかこんなところで感じることになるとは思わなかった。天海が手際よく身支度を整えるのを見ながら、また溜め息が勝手に口から出る。
「なんだよ、痴漢は面白かったか」
「・・・もうしない」
「あ、そ」
こんな時でも天海の横顔はスーパークールで溜め息も吐きたくなる。気に入らなくて手を引っ張ると、天海は簡単によろけてすぐに織部の腕の中に納まった。掴んだ手首を見やると、天海が先ほどまで噛んでいたシャツは、天海の唾液を吸い込んで少しだけ色を変えている。
「なに」
「・・・天海さん、あのさぁ、痴漢に今日みたいなことされてたわけ?毎朝?ずっと?」
「・・・―――」
腕の中でふっと天海の目が動いて、織部に当たって止まる。今の言い方では痴漢にまで嫉妬していたのがばれたかなと思ったけれど、織部はそれをもうどう隠したらいいのか分からなかった。
「そんなわけないだろ、馬鹿か、お前は」
「・・・ん?」
「せいぜい服の上からケツ撫でられるくらいだ。後勃ったもの押し当てられたりとか」
「ほんとに?指突っ込まれたりしてないの?」
「だから、指突っ込んで喜んでるのはお前ぐらいだ」
どんと肩を押されて、もう天海は出ていく準備が終わったようだし、この話もここまでという合図だったのかもしれない。織部は少しだけ拍子抜けして、またじっと天海のスーパークールな横顔を見つめる羽目になった。
「・・・なんだよ、もう出るぞ」
「天海さんあのさぁ、俺心配だからさぁ、もう満員電車乗らないでね」
「は?」
「指突っ込まれなくてもさ。天海さんの体、そんな風に触っていいの、俺だけだから、変なおっさんにもう触らせないで」
「・・・馬鹿か、お前は」
呆れたように天海がもう一度そう言うのに、織部は噴き出して笑ってしまった。
fin.
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