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第7話【執事の助言】

ラフェルは最近、悩み事が出来たようである。 「・・・はぁ」 その悩みの種は天気の良い屋敷の庭でせっせと庭師のお手伝いをしている。 最近はこちらの生活にもだいぶ慣れ、体力を持て余しているセリファが自ら屋敷の手伝いをすると言い出したのだ。 そんなセリファは最近屋敷の使用人達にいたく好評で男女問わず好かれているようであった。 しかしラフェルは複雑だった。 「ラフェル様。その溜息何度目ですか?」 「煩いな。私の【シルビー】なんだぞ?彼が暮らしやすくなるのはいいが、セリファが私以外に可愛がられるのは面白くない」 「・・・私どものソレとラフェル様とは全く違うでしょう?」 執事に注意されラフェルは膨れっ面になった。 ラフェルの執事は、ラフェルの幼馴染である。 リンドール家の主人に使える執事は代々決まった血筋の家の子供が側に置かれる決まりになっている。 幼い頃から様々な教育を受け主人の側で過ごし自分の主人の全てを把握し行動するのだ。 そんな事情からラフェルと執事のジルベールは主従というより、兄弟に近い関係性であった。 「ジル、君面白がってるだろ?」 「はい。面白い事になっておりますので?」 この執事相手に隠し事をするのは難しいとラフェルはよく承知している。だから敢えて隠さない。自分がセリファをとても気に入っている事を。 「私にはまだ、あんな風に気安く笑顔を見せてはくれない。分かってはいても気持ちのいいものではない」 そうだろうかと執事は首を捻った。 確かにセリファはラフェルに対してまだ緊張しているが、それは二人の身分差がそうさせているだけだ。 セリファは思ったより考えが幼いが、頭は悪くないと思う。むしろ空気は読める方だ。 彼は自分を引き取ったラフェルの事をよく観察している。そして、ラフェルに少しずつ心を開いていると思う。 「セリファさんがラフェル様の前で笑顔を見せないのはラフェル様が原因なのでは?そうやって勝手に拗ねて。毎回セリファに会う度に不機嫌な態度を見せているのでしょう?」 指摘され、ラフェルはやっと自分がセリファを不安にさせている原因に気付き眉間を押さえた。いくらセリファがお気に入りとはいっても、近々成人を迎える青年にこれほど夢中になるラフェルにジルベールは内心驚いている。 そんな気持ちを隠したまま執事は呆れた顔で笑うと頭を下げて部屋を出た。するとそこへ庭の仕事を終えラフェルの所へ向かう途中のセリファがやって来た。 「あ、ジルベールさん。ラフェル様いる?」 前言撤回。 可愛い。この子可愛い。 決して不埒な意味ではないが、屋敷の者達が虜になるのも頷ける純粋さである。その手に持っている花がそれを物語っている。 「いらっしゃいますよ。それは、ラフェル様に?」 「うん。男に花を渡すのはどうかと思うけどニールさんがご主人は、この花の香りが好きだって聞いて」 屋敷の者達は最初ラフェルの【シルビー】が男性だと聞いて正直気落ちした。 同性の【シルビー】を手に入れて幸せになった者は数少ない。大概の者達が奇跡の相手である【シルビー】を失い破滅する。同性同士の番は色々と面倒なのだ。 しかし、セリファが来てから屋敷の中に活気が出た。 「ええ。しかしラフェル様はセリファさんが選んだ物でしたらなんでも喜ぶと思いますよ?痩せ我慢しておられますが、あの方はもっとセリファさんと仲良くなりたいと思っておられますので」 ジルベールのその言葉に、僅かだがセリファの頬が赤く色付いた。そんなセリファを疑問に思いジルベールは少しだけセリファを探ってみた。 「どうしました?何か、心当たりでも?」 暫く言いづらそうに下を向いていたセリファだったが、やがておずおずと顔を上げると、なんだか恥ずかしそうにラフェルの執事に尋ねて来た。 「あ、あの・・・ラフェル様が、俺にする事って全部ちゃんとした理由があるんだろ?その、普通男同士でしないような事も・・・間違ってないんだよな?」 優秀な執事は直ぐに全てを察した。 どうやら徐々にラフェルは我慢出来なくなって来ているらしい。そして、セリファは日に日に積極的になっているラフェルの行動に疑問を抱き始めている。 「はい、間違いではありません。でも、セリファさんが嫌な事は断っても大丈夫ですよ?」 執事の言葉にセリファは少し困った顔をした。 教師にも同じ事を言われていたセリファだったが、主人であるラフェルのする事を拒否するのがきっと躊躇われるのだと優秀な執事には直ぐに感じ取れた。 「実際どうなのです?今までセリファさんが、ラフェル様にされて嫌だと思った事はなかったのですか?」 「・・・嫌というか。困ると、いうか・・・」 確かに、いくらお互い相性抜群の相手だとしてもセリファは健全な青年であり、別に男性が好きなわけではない。しかもまだ未成年で恐らくそういった経験もないと思われる。そんな相手にいきなり男同士で性的な行いをしろなどと言えるわけもない。 そもそも、本来それ自体強制ではない。 【シルビー】の自由意思なのである。 「それでもいいんです。怖い事や困ってやめて欲しい時は素直にそう仰って下さい。その代わり、したいと思った事はしてあげて下さい。きっとラフェル様はとても御喜びになりますよ」 「したいと、思った事・・・」 良かれと思い口にしたこの一言により事態が急展開を迎えるのはもう間もなく。 そして執事がその事を知るのは、もう暫く後である。

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