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第11話【無自覚シルビーに振り回される】

「はぁ〜・・・」 ラフェルは今日何度目かの深い溜息を吐いた。 あの日以降ラフェルはセリファに近づかない様に気を付けている。 しかし、それが苦行としか思えないくらい辛い。 (困った。これでは益々セリファに近づく事が出来ないな) 初めて触れた衣服に隠されていたセリファの身体は大して筋肉質ではないものの、しっかりとした青年の体躯だった。それなのにラフェルが触れた彼の肌はしっとりと柔らかく摘んだ乳首は可愛いいピンク色で発散しきれず勃ち上がった彼の猛りは使い込まれておらず綺麗な形でピクピクと物欲しそうにラフェルを誘っていた。 (違う。セリファはまだ若い。性の欲求に抗えない年頃だ。彼があそこまで許したのは我慢出来なかったからであって決して私を好いている訳では・・・) そこまで思考し実はセリファに好意を持って欲しいのだという考えに至ったラフェルは今度こそ力なく机に突っ伏した。 (・・・私が、同性の・・・あんな子供に・・・いくら相手が【シルビー】だとしても無理がある) 女性であれば結婚して子供を作り家族になれる。 だが男同士の場合はお互いを繋ぎ止められる物が限られてしまう。 【シルビー】が相手であれば同性であっても身体を繋げる事は可能だ。だが、心はそうもいかない。 (彼はいまだに自分は私に"買われた"と思っている。そんな状態で彼を強引に抱けばセリファは自分の事を私の道具と考えるに違いない・・・) 確かにラフェルには【シルビー】が必要だった。 しかし本来それらはお互いの了承の下交わされる約束であり、セリファの様に家の事情でやむなく相手に引き取られるのは稀なケースだった。そこにはセリファ側の都合も少なからず関係してはいたのだろうが。 ラフェルが悶々と考えに耽っていると彼の研究室のドアがノックされた。 「ラフェル様、お客様がお見えになっております」 彼の部下が部屋に入って来るのをラフェルは気乗りしない顔で見返した、すると何故かその部下が困った顔で此方を見ている。 「なんだ?私に客とは・・・まさか殿下がいらっしゃった訳ではないだろう?」 「あ、いえ、ちがいます。そのぉ〜・・・ラフェル様のお屋敷の方なのですが・・・」 屋敷の者とは使用人だろうか? ラフェルは訝しげに彼を見返すとその部下は益々困った顔で汗を拭いた。 「初めて見る方でしたので、関係を尋ねたら、その・・・ラフェル様の【シルビー】だと」 「・・・・・・え?」 その時、部下の脇から最近はずっと避け続け、しかし会いたくて堪らなかった人物がヒョッコリ顔を出した。 その青年の顔も少し緊張で強張っている。 「ラフェル様。仕事中なのに・・・ごめん」 恐らく怪しまれ身元を証明するものを提示しても簡単に通されなかったのだろう。僅かだがセリファの肩が震えている。 ラフェルはそれを確認すると部下が今まで見た事もないであろう微笑みを浮かべセリファの名を呼んだ。 「わざわざ私のところまで来てくれたんだねセリファ。此方においで、君の顔をもっと近くで見たい」 セリファが近くまで来るとラフェルは椅子から立ち上がり、セリファを引き寄せ抱きしめた。そして彼の震える肩を優しく撫で、ドアの前で棒立ちの部下に目をやった。 「ところでセリファ。君がここに来るまでに私の部下が何か君に失礼な態度をとらなかったかな?少し顔色が悪い様だけれど?」 「・・・え?えー・・・と」 チラリとセリファが背後にいる兵士に目を向けると男の顔色が急に悪くなった。どうやらやはり失礼な態度を取られたらしい。ラフェルは笑顔の仮面を付け直した。 (コレは後でしっかりと言いつけておかなければいけないな。それにしてもセリファが(ラフェル)の【シルビー】だと口にしてくれるなんて・・・) 「何も・・・あの人が俺をここに連れて来てくれた」 セリファの答えにラフェルの部下は安堵の溜息を吐きラフェルは舌打ちした。そしてセリファはラフェルに抱きしめられた状態のまま言いづらそうにラフェルを見上げている。 「あ、あの。人が見てる前で魔力交差するのは・・・」 「ああ?違うよセリファ。これはただのスキンシップだ。セリファが私に会いに来てくれたのが嬉しくて」 抱き寄せていた手を少し緩め頭を撫でるとセリファは驚いた顔でラフェルを見上げた後、珍しく笑みをみせた。それが、あまりに自然な笑顔でラフェルは一瞬そんなセリファに見惚れてしまう。 「よかった・・・迷惑かもしれないと思ってたから」 どうやら追い返される可能性を考えていたらしい。 きっと最近ラフェルがセリファを避けていた事が原因だろう。 「まさか。最近忙しくて時間を作れない私の為にわざわざセリファが来てくれたのに、そんな風に思うわけないだろう?」 それどころかラフェルの気分はセリファの登場により急上昇した。抱き寄せても嫌がらず微笑んでいる彼の顔を見て、ここ最近の気分の悪さが吹き飛んだ。 しかし、セリファが会いに来てくれた理由がいまいち分からないラフェルは首を傾げる。何かあったのだろうか? 「それで、なにかあったのか?セリファがこんな所に来るなんて初めてだろう?」 その問いに、セリファは気不味そうな顔をしたあと、あろう事か、とんでもない爆弾を投下して来た。 「なにも。ただ、俺が・・・ラフェル様に、会いたくて・・・」 セリファの言葉にラフェルもその場にまだいた兵士も固まった。しかし、それも一瞬の事でラフェルは満面の笑顔で兵士に指示を出した。 「私は彼と大事な話がある。今日はもう誰もこの部屋に近づかないように」 「・・・・・・・・・了解致しました」 後に兵士はその日の事をこう振り返っている。 『あの目はマジだった。邪魔したら一瞬で消されるフラグだった』と。

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