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第12話【魔術師団長を攻略せよ】

「ラフェル様の屋敷の方、ですか?」 「はい。ラフェル様に用事があって。会いたいんですが・・・」 ラフェル・リンドールはここの王宮の魔術師団の管理をしている最高責任者である。警備兵はなんの約束も取り付けていないという青年を最初不審者だと思った。 「屋敷の使いではなく君個人がラフェル様に?失礼だが君とラフェル様はどういった関係なんだ?」 確かに身なりは綺麗な青年だが大貴族のラフェルとは釣り合わない田舎くさい雰囲気の青年である。もしかしたら変装しラフェルによからぬ事をしようと考えているのかもしれない。門番である兵士は少し強い口調で青年を問い詰めた。 「関係、ですか?俺は、ラフェル様の屋敷で住まわせて頂いている者ですけど」 「君がリンドール家の使用人ならそれを証明する物を持っていないのはおかしいだろう?つまり君はあの屋敷の使用人ではないという事だ」 兵士のその言葉に、青年は困った顔になった。 やはりデタラメを言っていると確信し追い払おうと手を伸ばした時、その青年は予想だにしなかった言葉を口にした。 「俺、ラフェル様の【シルビー】です」 その一言に問い詰めていた兵士も周りで様子を伺っていた王宮の者達も動きを止めた。 今彼は、王宮を揺るがす爆弾発言をかましたのだ。 「・・・お名前を・・・お伺い、しても?」 「あ!名前?忘れてた。俺、セリファと言います」 その名を聞いて兵士は今度こそ白目を剥いた。 最近ラフェルが運命の番と呼ばれる【シルビー】と出会った事は王宮中に知れ渡っていた。そして、その【シルビー】に危険が及ぶ事がないよう、その名だけは皆に知らされていた。 王宮の官吏であるラフェルが大きすぎる魔力を安定させる事は彼が支えている国の安全を盤石にする重要な課題でもあったからだ。 「・・・大変、失礼致しました。その、私達はラフェル様の【シルビー】が男性である事を知らされていなかったものですから・・・」 「あ、いえ。突然押しかけた俺が悪いんで。ラフェル様も相手が男だって言いたくなかったのかも」 セリファの言葉に兵士の顔色は一気に悪くなった。 これはもしかしたら地雷を踏んでしまったかもしれない。同性である【シルビー】から起こる問題は皆が知るところである。 もし、ここでセリファがラフェルに対して変な誤解を抱き二人の仲が拗れてしまえば、その責任は余計な事を口にした兵士の責任になる。 【シルビー】はその人間にとって唯一無二。 代わりになる者などいない。そもそもシルビーに出会える人間などほぼいない。自分だけの【シルビー】を手に入れる事は奇跡に近い。 【シルビー】とはそれだけ貴重で、かつ重要な存在だ。それも、その奇跡を手に入れた人物が国にとってとても重要な役割を持つ大物であるというのが更に問題だった。 兵士は思った。 (やばい。俺下手すると明日から露頭に迷う羽目に?) そんな訳で彼は自らセリファをラフェルの執務室まで連れて行った。彼の運命はセリファに委ねられた! 「何も・・・あの人が俺をここに連れて来てくれた」 兵士は空気が読めるセリファに感謝した。 その日からセリファは王宮の門を顔パスで潜れる様になった。そして門番の兵士達はセリファの姿を確認すると聞かずともラフェルの所まで案内する様になったのである。 「・・・セリファさんが来るとラフェル様のご機嫌が凄く良くなるんです。ギスギスとした空気が一瞬の内に消え去るんですよ?あの三大魔王の一人がですよ?これは私達にとって、とても大事な環境改善のチャンスです!!」 この国の宰相はこの好機に皆を集め緊急会議を行った。勿論その三大魔王と呼ばれている者達は除外している。 「幾ら王の選んだ強者達といえど周りの迷惑を顧みず暴れられては堪りません。ラフェル様のご様子からやはり他の二人にも【シルビー】は必要かと」 「まぁそれは王も承知している。しかし、今は取り敢えずラフェルが【シルビー】を手放す事態を引き起こさぬ事が先決だ。まさか彼の【シルビー】が男だとは・・・無知な者が余計な手出しをしなければ良いのだがな」 そして本人達の知らぬ所で二人の話が進められているとも知らず当人達はまた別の問題を抱えていた。 「・・・ラフェル様。俺、キスが嫌な訳じゃない」 「ああ。それは教えてくれたから分かってるよ。でもセリファの負担が大きくなるからね。もう少し時間をかけて慣らしていこう」 ラフェルはセリファを膝に乗せ軽く抱きしめたまま彼の頭を撫でている。 そう、二人はあの後いまだに手を握り抱き合う魔力交差しか交わしていなかった。 (・・・嫌じゃないって言ってるのに。なんでだよ。もしかして俺、凄く子供扱いされてるのか?) セリファからすれば、あの時かなり勇気を出しラフェルの仕事場まで押しかけた。実際会って抱き締められた時セリファは自覚していなかったが拒絶されなかった事がとても嬉しかった。そのままキスが嫌ではない事を伝えて次の魔力供給の時はきっとキスされるものだと思い込んでいた彼は、最低限しか触れてこないラフェルに正直ガッカリした。 「・・・もう、大丈夫なのに」 小さな声で呟いたセリファの声はちゃんとラフェルにも届いていた。しかし、彼は彼で苦悶していた。 (いや、私が大丈夫じゃない。そして君はきっと分かっては、いない!) この国の成人は17歳。 セリファが成人するまで後三ヶ月程である。 ラフェルは、それまでに解決しなければならない課題があった。 (もし、セリファを抱くのなら彼を私の恋人にしなければ。そうしなければ、きっとこの関係は長続きしない) 同性の【シルビー】と相思相愛になる。 実はそれがとても難しい事なのだと気付かない者は多かった。

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