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第13話【意に沿わぬ魔力交差】
セリファは最近出入りが許可された王宮にやって来ていた。
ここに来るのも一度限りだと思っていたセリファは、初めて王宮を訪れた日の帰り際に、王宮の官吏や兵士に囲まれた。
「是非また遊びにいらして下さい。セリファさんが来てくれるとラフェル様の体調も良くなりますので」
「ご迷惑でなければご都合のよい時間帯にお迎えに上がりましょう」
「私どもの事はラフェル様にはご内密に。余計な気を遣わせたと思われてしまいますので」
そして言い返す間もなく話を纏められ気が付けば1日おきに王宮から迎えが来る様になった。
最初はラフェルの邪魔になるのではないかと心配したセリファだったが、彼等の言う通りセリファが顔をだすとラフェルはとても喜んだ。そうして二人は一緒に休憩を取るようになったのだ。
(ラフェル様一人の時は休憩をとらないって言ってたし本当は毎日会いに行った方がいいのか?)
そんな王宮通いが習慣になりつつあるセリファにその日事件が起きた。
迎えの兵士の少し後を歩きながらボンヤリ考え事をしていたセリファはその時前方から人が近付いている事に気付かなかった。
「セリファ様!」
「え?っうわ!!」
気付いた時にはセリファの足は地面から浮いていた。
驚いて顔を上げると、そこにはセリファの数倍も体の大きな厳つい顔の男が立っていた。そしてその男にセリファは両脇を抱えられ持ち上げられている状態である。
「お前がラフェルの【シルビー】かぁ?」
眉間に皺を寄せニヤリと笑うその男から魔族の濃い匂いがする。恐らく人間よりも魔族の血が強いのだろう。明らかに普通の人間とは違うオーラをセリファは感じ取った。
「・・・おろして、ください」
ふと、セリファは体の異変に気が付いた。
この感覚は覚えがある。
セリファは慌てて暴れ出した。
「流石【シルビー】すげぇ魔力量だな?なんだ、一人だけのモンだっつーから他は駄目かと思ったら俺とも魔力交差出来るんじゃねぇの?」
「エゼキエル様!おやめ下さい!彼はラフェル様の【シルビー】他の者が手を出してはいけません!」
セリファの意思と関係なく目の前の男に魔力を吸い取られている。その不快感にセリファは吐き気をもよおした。
「っぅ!・・・」
「ラフェルより俺の方が切迫詰まってんだよ。別に少しくらい、いいだろぉ?女より男の方が身体は丈夫だろ?」
セリファは今までラフェル以外と魔力交差した経験がない。魔力交差自体、平民の間でも行うのは珍しい事ではないが相性が合わなければ行う事は出来ない。
(・・・気持ち悪い。どうして?ラフェル様とした時は一度もこんな嫌な気分にならなかったのに)
同じくらいの魔力量で自分の属性とぶつからない魔力を持っている者。そして一番大事なのは相手を癒そうとする意思と想いである事。それを無視し魔力交差しようとするれば拒否反応が出る。
「あん?なんだぁ?どうして俺の魔力が上手く流れねぇんだ?やっぱ粘液交換じゃねぇと駄目か」
「・・・・・・ゃめろ」
「あ?」
強引にセリファの顎を持ち上げた男をセリファは睨んだ。無理矢理男の魔力がセリファの内側に入って来ようとしていたが、セリファはそれを受け入れなかった。
「おい?拒絶すんな。ちぃと貰いすぎたから俺の魔力を戻しとかねぇとお前の身体が・・・」
「そんなもの、流されるなら死んだ方がマシだ!!」
無理矢理男の魔力を流し込まれそうになったセリファは気がつくとそう叫んでいた。そんなセリファの言動に一番驚いたのはセリファ本人だった。
(だめだ・・・意識が、もう。俺、もしかして本当にこのまま・・死ぬ?)
「チッ!面倒だな。平気だと思って魔力奪いすぎちまったじゃねぇか」
意識が遠のく中、誰かに名を呼ばれた気がした。
セリファがなんとか目を開けて其方を見ると、遠くからラフェルの駆けてくる姿が見える。しかし直ぐ視界は歪み、セリファの意識はゆっくりと沈んで行く。
「悪りぃな。もうどちらにしろタダではすまなそうだからよ」
男は意識が落ちる寸前セリファにそう告げると、抵抗していたセリファの唇に舌をねじ込んだ。
「エゼキエル!!貴様ぁああーーー!!」
その後、何が起こったのかセリファは知らない。
セリファが次に目を覚ましたのは屋敷のラフェルの寝室だった。
「・・・あれ?俺・・・」
「セリファ!良かった・・・身体の具合は?」
身体をゆっくり起こすと、まだ少し目眩がした。
少し胸の辺りが重く気分が悪い。
「まだ少し・・・気持ち悪い」
「そうか、急激に魔力を奪われたからね。今新しい魔力石を・・・」
椅子から立ち上がり離れようとするラフェルの服をセリファは思わず掴んで止めた。まだ目が覚めたばかりで状況が掴めない。
「お、俺なにされたの?もしかして、もうラフェル様と魔力交差出来なくなった?」
「え?いや、それは大丈夫だ。別に【シルビー】だからって他の人間と魔力交差出来ないわけじゃない。ただ無理矢理だったから身体が拒絶反応を起こしたんだ。心配しなくても大丈夫だよ」
そう言われてもセリファの不安は拭えない。
何故ならラフェルの様子もおかしいからだ。
「ラフェル様・・・」
「・・・怖かっただろう?すまないセリファ。私がもっとちゃんと気を付けておくべきだったのに」
不安そうなセリファをラフェルはそっと抱き寄せてくれる。それにセリファはやっと安堵の息を吐いた。
「・・・すごく、気持ち悪かった」
「そう。アイツは野蛮人だから」
「ラフェル様じゃなきゃ、嫌だ」
安心したら記憶が蘇り全身に鳥肌が立ってきた。
セリファはラフェルにしがみつくと彼の胸に顔を埋めた。
(これじゃ本当に子供みたいだ)
「・・・・・・ああ。もう二度と誰にもセリファに触れさせない。約束する」
その時ラフェルの瞳の色が変化した事にセリファは気付かなかった。
そしてその言葉通り、ラフェルはその日からセリファを側から離さなくなった。
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