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第14話【キス】
「ラフェル様はいつまで休み?」
近頃王宮に行かずずっと屋敷で過ごしているラフェルをやっとおかしく思ったのか、セリファが遠慮がちに尋ねて来た。
「そうだね?準備が出来次第王宮から知らせが来るからまだ暫くは屋敷で仕事をするよ。もしかして退屈かな?」
あの事件以来、ラフェルは屋敷にいる時であってもセリファから離れようとしなかった。常に自分の目が届くところにセリファを置いている。
「さっき体を動かしたから大丈夫。邪魔してごめん」
長く一緒にいるせいか、セリファの言葉遣いも段々気安くなってしまっているがラフェルは何も言わなかった。そして、最近大きく変わった事がもう一つ。
「いや、邪魔じゃないよ。少し休憩しようかな、セリファ」
ラフェルが手を伸ばすとセリファは少し恥ずかしそうに下を向いて側まで来た。そして、座ったままのラフェルの肩に手を置くと顔を近づけてくる。
「もう大丈夫だと思うけど一応多めに流すよ?」
「うん」
話は、あの事件の少し後まで遡る。
「ラフェル様、さっきから俺身体に力が入らない」
ラフェルにしがみつきながらセリファは新たな不安を口にした。一方ラフェルは未だに煮えたぎる怒りを押さえながら表向きは冷静を装っていた。
「今、セリファの中には殆ど魔力がないからだろう。本来なら奪われた分与えるのが魔力交差だが、セリファはアイツの魔力を拒絶したから。今は私から流している微量な魔力しか残っていないんだ。自然と魔力が回復すれば動ける様になるから心配しなくてもいいよ」
そう説明していたラフェルだったが実は真実は少しばかり違っていた。エゼキエルはセリファが気を失う直前に無理矢理セリファの中に自らの魔力を注ぎ込んでいる。それをラフェルがセリファの中から抜き取ってしまったのだ。
セリファの中に自分以外の魔力交差の痕跡が残されるその不快さに彼は耐えられなかった。
「・・・でも俺、気絶する前あの人に・・・」
そう言って口元を押さえたセリファの手をラフェルは優しく握り、そしてその手の甲に口付ける。
セリファは、そんなラフェルをぼんやりと見た。
「セリファ、私とキスしよう」
「・・・・・・う、ん?」
少し困惑気味のセリファの頬をラフェルが撫でると彼は黙って目を閉じた。ラフェルはこの時、もちろん冷静ではなかった。
「嫌だったら我慢せずに私の肩を叩いて欲しい。叩かれたらすぐに止めるから」
自分の目の前でセリファの唇をエゼキエルに奪われたラフェルは、怒りで我を忘れそうになった。
しかし、そんなラフェルをなんとか保たせたのは、ラフェルの中にあったセリファの魔力の痕跡と、エゼキエルの腕の中で気を失いグッタリしているセリファの存在だった。
それにより最悪の事態、王宮全壊という被害を免れたのである。あとエゼキエルにもそれなりの制裁を与えたのは言うまでもないのだが、それでもラフェルの気は済まなかった。
(あの男にされた事、全てを上書きしなければ)
ラフェルの唇がそっとセリファの唇に触れる。
その感触にセリファはピクリと瞼を揺らした。
暫くそのまま啄む様なキスを繰り返していると、いつの間にかセリファの瞼が開いていた。
なんだか物言いたげに此方を見ている。
恐らく余りに軽い口付けに子供扱いされていると思っているに違いなかった。若干その顔は不服そうである。
「・・・ん、ラフェ・・・」
不満を口にしようとしたセリファの口を、その形のままラフェルの口が塞いだ。開いた歯の間をラフェルの舌が通り抜けて行く。
そして・・・。
「ーーーーーーッぅん!!」
二人の舌が触れ合ったその瞬間、失われていたセリファの魔力が一気に噴き出した。
正確にはラフェルの大量の魔力がセリファの中に流れ込み、それがセリファの魔力に変化したのである。
それこそが【シルビー】の最大の特徴なのだが、今はそれよりも問題なのは、それによって引き起こされる快感であった。
「っふぁ!ーーーっぁぁああ!ら、ふぇるさまぁ!」
「ーーーーーーッぅ!セ、リファ。落ちついて、ゆっくり、魔力を吸い込んで・・・」
まだ本格的な魔力交差をした事がなかったセリファは予想していた通り上手く魔力を変換出来ず相性が良すぎる為に発生する強い快感にも抗えず呆気なくキスされただけで達してしまった。
そうなる事が分かっていたラフェルは快感で身体を痙攣させているセリファを満足気に抱き寄せると珍しく意地悪な事を囁いて来た。
「セリファはもう直ぐ成人だから、キスするぐらいなんともないんだろ?」
何度かセリファの方からキスしても平気だと申告して来た事を揶揄われていると分かったセリファはちょっとムッとした。なので珍しく強がった。
「・・・平気。必要ならいつでもどうぞ、ラフェル様」
明らかにセリファが強がっていたのはわかっていたが、ラフェルは気付いてないフリをした。
そして二人は、その日から度々キスするようになった。
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