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第16話【シルビーの居場所】
セリファの誕生日が一ヶ月まで迫った頃、ラフェルは焦りを覚えていた。
(駄目だ。このままではきっと誤解されたまま一線を超えてしまいそうな気がする。その前にちゃんとセリファと話をしなくては・・・)
セリファがエゼキエルに襲われたあの日以来、ラフェルはその出来事を上書きするように何度もセリファにキスをした。そしてその度にセリファが溜め込んだ熱を発散させるのを口実にしてセリファに触れている。
本来ならばセリファが成人するまで性的な行いはしないつもりだった。もちろんセリファが拒否するのであれば成人したとしても、するつもりはなかった。
しかし、それが甘い考えだった事を今ラフェルは身をもって実感している。一度味わたってしまったら自分では抑えきれなかったからだ。
「ラフェル様?どうした?具合でも悪い?」
「・・・いや。セリファ、今日は少し話をしないか?」
そう言いつつラフェルの左腕はしっかりとセリファの腰を引き寄せ右手はセリファの頬を撫でている。
直ぐにキスされなかったセリファは少し複雑そうな表情でラフェルを見上げた。
「なに?ラフェル様」
「セリファはこの魔力交差の事、どう思ってる?本当はしたくないのに我慢していたりしないかい?」
今更なその質問にセリファは沈黙した。
そんなセリファの様子にラフェルは不安と焦りが強くなる。そして彼の中で異なる二つの感情が湧き上がって来た。
嫌なら今直ぐにでも止まなければという気持ちと、自分を拒絶するなんて許さないという激しい感情である。
一方、葛藤しているラフェルの腕の中でセリファは少し遅れてラフェルの質問について考えていた。
(・・・そういえば俺、ラフェル様にキスされるの嫌だと思った事ないな。普通、同じ男にこういう事されるの嫌だよな?あのでかい人の時は物凄く嫌だったし、気持ち悪かった・・・)
この行為に疑問を抱かないわけではない。
明らかにおかしいと思うし、変な関係だということは理解している。しかし、そもそも自分達は特殊な繋がりを持つ関係なのだとセリファは教わったので今までそれ程深く考えて来なかった。
セリファは【シルビー】
特別な存在だと教えられている。
「・・・ラフェル様と魔力交差するのは、嫌じゃない。その・・・キスは、嫌というより、俺すぐ身体がおかしくなるから、困るけど・・・」
最近はラフェルがセリファをちゃんと最後まで気持ちよくしてくれるので困ってはいない。ただ毎回とても恥ずかしいセリファではある。
「じゃあもしも、私が君に今以上の関係を求めたら迷惑かな?」
「今以上の、関係?」
要領を得ない顔をしているセリファの手をとりラフェルは覚悟を決めると、自分の望みを口にした。
「私の恋人になって欲しい」
「・・・え?でも俺、男だけど・・・?」
そして間髪入れずに交際を申し込んだ相手から突っ込みが入った。ラフェルは想定していたよりも切れ味の鋭いセリファの返しに、内心吐血した。
「う、ん。そうだね。私もセリファも男が好きなわけではない。けれど、これから先セリファが女性と結婚して家族を持ちたいと思っても君が私の【シルビー】である限りその願いは叶わない。そして私も、別の誰かを同時に愛せる程器用な人間ではない。もし、仮にお互い別の恋人を作ったとして、その相手は私達の関係をどう思うだろう?最初は納得したとしても時が経つにつれ我慢出来なくなるだろう」
「・・・俺、誰かと結婚するつもりはないけど」
説明の仕方が回りくどすぎた。
ラフェルはやはり、少し焦っていたようである。
「・・・私は、セリファを失いたくない。君が許してくれるならもっと深くセリファと繋がりたいんだ」
必死なラフェルを前に、しかしセリファは対照的に首を傾げ目を瞬かせ正論を口にした。
「性別はともかく、恋人は好きな人同士がなるものだと思う。俺ラフェル様の事好きだけど、恋かどうかって聞かれたら正直分かんない。ラフェル様もそうじゃない?」
それは、ラフェルからすれば思いもよらない指摘だった。そしてその指摘をセリファにされた事にラフェルは衝撃を受けた。
「俺はラフェル様の【シルビー】だからずっとラフェル様の側にいる。元々ここに来るって決めた時、覚悟はしてたから恋人を作るつもりもない。だから、ラフェル様も無理に責任を取ろうとしなくていいと思う」
「責任?」
掠れた声でラフェルが問い返す。
すると、セリファは少し寂しそうに微笑んでラフェルを真っ直ぐ見返して来た。
「俺も自分の都合でラフェル様の所に来た。確かに俺、まだ自分の事もまともに責任がとれない子供かも知れないけど、それを全部ラフェル様の所為にするつもりはないよ。だから、変な気は使わないで」
ここまで言われラフェルは自分がやり方を間違えた事を知った。
ラフェルはセリファを完全に誤解させた。
「俺、ラフェル様が結婚してもラフェル様の【シルビー】でいる。邪魔したりなんてしない。必要な時だけ呼んでくれればいいから」
自分の膝から降りて離れようとするセリファの腕をラフェルは咄嗟に掴み強引に引き寄せる。
今までにないほど強く掴まれ乱暴にラフェルに引っ張られたセリファの身体は、再びラフェルの胸の中に収まった。
「そんなつもりで言ったんじゃない!だが、君の言った事も間違いじゃない」
「・・・ラフェル様?」
初めてセリファに触れた瞬間からセリファはラフェルの【シルビー】 になった。セリファ同様、ラフェルも自分のこの感情がなんであるのかハッキリとしていなかった。
「私には確かに君との魔力交換が必要だ。だが、それだけの関係は嫌なんだ。セリファは今、仕方なく私の側にいる。そんな関係を続けたくはない」
その言葉にセリファの両目が大きく見開かれた。
そして、彼はラフェルに抵抗した。掴まれている手を振り払いラフェルをソファーへ突き飛ばしたのだ。
「・・・なんだよ、それ・・・」
「セリファ?」
ラフェルはこの日、初めてセリファから怒りを向けられた。
「俺は一度だって嫌だなんて言ってない。アンタ等が勝手に俺を可愛そうな子供だって決めつけてるんだろ」
そう言うと彼はそのままラフェルの部屋を出て行った。そして部屋から出て来なくなった。
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