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第20話【成人の日】
遂にその日がやって来た。
セリファは今日成人を迎え教会で祝福の儀を受けた。この儀式を受ける風習はセリファが産まれた領地にはないものだったが、折角なので受けておいでとラフェルに勧められたからだ。
司祭から祝いの言葉を受け祝福の儀式を終えたセリファはソワソワしながら儀式が終わるのを待っていた。
ラフェルからの交際の申し込みを断ってからこの日まで、二人は結局また、すれ違いの日々を過ごしている。
すれ違いといってもお互い忙しくて二人の時間が作れないだけで顔を合わせれば普通に会話し、魔力交差も週に一回は行っていた。ただ、手を繋ぐだけの最低限の触れ合いに戻ってしまっていたが。
セリファは同じく祝福を受けた者達と教会を出ると、見覚えのある人物が立っているのが目に入り、驚いてそちらに駆け寄った。
「ラフェル様、なんでここに?」
「今日の仕事はもう終わらせて来たんだ。セリファの成人祝いをしたくて」
そう言うと、ラフェルはセリファの隣に並んで歩き出した。迎えに来てくれた事を知り、セリファはつい口元が緩んでしまう。
最初の頃はラフェルに優しくされる度に戸惑っていたセリファだったが最近は彼が気に掛けてくれるのを喜んでしまう自分がいる。
特にここ数日はラフェルと接する機会が減っていた為、余計に嬉しく感じてしまうのだろう。
「いいよ、お祝いなんて。でもやっと俺も大人になれた」
「そうだな。もう保護者は必要ないな。セリファは何かやりたい事がある?」
「う〜ん。俺、生きていくのに精一杯だったから考えた事なかった。でもミティールの仕事は手伝ってて楽しい」
久々に二人きりで話せる嬉しさもあってか、セリファの口数はいつもより多い。ラフェルも穏やかな表情でセリファの話を聞いてくれている。
「そうか。今までは未成年だったから君の行動を制限していたけれど、これからはやりたい事があれば遠慮せず言って欲しい。出来る限り私もセリファの事を応援するから」
余りに優しすぎるラフェルの言葉に、ついいつもの様にセリファは首を横に振った。
「いや、もう充分過ぎる程もらってるし。これからは俺がラフェル様の役に立たないと・・・」
「それは嬉しいけれど、あまり気負い過ぎないで欲しいな」
セリファの意気込みはラフェルを困らせてしまったようである。中々上手くいかないラフェルとのやり取りにセリファは思わず下を向いた。
(そうじゃなくて・・・)
先程まで珍しく笑顔だったセリファの表情が段々と影を増しているのを見たラフェルは苦笑いして彼の手を引いた。
「・・・セリファはもう大人だから少しだけ我儘を聞いてもらおうかな」
「え?ラフェル様・・・?」
ラフェルは屋敷の門を潜ると屋敷の中には入らず手入れされた庭園の奥のガゼボまでやって来た。そして柱に寄りかかり、目の前に立っていたセリファを抱きしめる。
セリファの身体にラフェルの魔力が流れ込んできた。魔力交差の気持ち良さにセリファは目眩を覚え膝をつきそうになり慌ててラフェルの背中を掴んだ。
「大丈夫?セリファ」
おかしい。
抱きしめられただけなのに、キスされた時の様な気持ち良さがセリファの中で広がっている。それでもセリファはそれを口にはせず、頷いてラフェルを見上げる。
その先にある美しく揺れるエメラルドグリーンの瞳がセリファを映している。
「今日はセリファからキスしてくれないか?」
瞳の色に吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えながらセリファはラフェルの唇に引き寄せられた。久々に触れた彼の唇の柔らかさに思わず身震いする。
「今日は、セリファが許してくれるところまでしよう」
思考するよりも早くラフェルが首元のクラヴァットを抜き取りシャツのボタンを外した。セリファは晒されたラフェルの胸元から目を逸らす事が出来ない。
しかも初めて見るラフェルの生の肌に何故かじわじわと身体が熱くなってしまい、そんな自分の変化にセリファは戸惑った。
「す、するって。こんな所で?」
「寝室に入ってしまったら私が我慢できなくなってしまいそうだからな。外なら無理矢理一線を超えてしまう事はないだろ?」
どうやらラフェルはまだ今まで以上の事をセリファにするつもりはないようだ。
しかし、いつもと違う彼の様子にセリファは気が付いた。なんだか今日はセリファに遠慮がない気がする。
彼の態度は少しだけジルベールといる時のラフェルに近いと思った。
(も、もしかして。俺が成人したから?)
子供扱いされない事を嬉く思うと同時に、自分の役割の重責がじわじわとのしかかって来るのをセリファは感じた。自分にはない大人の色香を出す男を目の前にセリファはどうしたらいいものか分からず白旗を上げた。
「・・・え〜と、外で出来る程度の事ってキスが限界なんじゃ?」
「じゃあ、もっとキスしよう。セリファ」
ベンチの背もたれに背中を預け両手を広げたラフェルに応え、向かい合う様に彼の膝に跨ると、腰に腕が巻き付き抱きしめられる。抱き寄せられたセリファの目の前に再びラフェルの生肌が飛び込んで来た。
(うっ!な、生々しい。しかもラフェル様結構鍛えてるんだな・・・思ったより・・・)
生で触れる肌からいつもより多くの濃い魔力が流れ込んで来る。セリファは息を吐きながらその感覚を受け止める。
久々の魔力交差にセリファの心は満たされた。
「セリファ、辛くない?」
ラフェルと距離を置いていた間セリファはずっと満たされなかった。満足させなければならない相手はラフェルであって自分ではないのに。
「辛くない、気持ちいい」
「・・・じゃあ、もっと多く流してもいいか?」
「うん。・・・ラフェル様・・・キスして」
セリファのお願いにラフェルの瞳が見たこともない程大きく見開かれる。セリファが自ら望んでそれを口にしたのはこれが初めてだった。
「無理してない?」
なにやら固まってしまったラフェルにセリファは焦れた。早く前みたいに深くキスして欲しい。
「してない。俺ずっと我慢してたから」
普段なら決して口に出さない言葉をセリファは口にしてしまった。それぐらいセリファはラフェルとの触れ合いに飢えていた。
過保護なくらい大切に扱われながら魔力の相性が最高の相手からもたらされる触れ合いは、まるで麻薬の様だとセリファは思う。内心何度ももっと気持ちよくして欲しいと思ったが、セリファは今まで耐えて来た。
「どうして欲しい?」
ハッキリ言おう。
セリファはラフェルに触れられなかった数ヶ月間、欲求不満だった。
「俺、大人になったから、ラフェル様と気持ちよくなりたい」
ラフェルが立てていた計画が、またもやセリファのこの一言により無駄になったのは説明するまでもない。
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