24 / 102

第24話【差し出された身体と置き去りにされた恋心】

彼が自分の【シルビー】だと理解した時ラフェルの頭を占領したのは"絶対に逃さない"という思いだった。 まだ【シルビー】を探していた頃、ラフェルもまた無意識下で【シルビー】を都合の良いパートナーという存在として捉えていた。 大神官に幾度も【シルビー】は"奇跡の存在"、"運命の相手"だと説明されていても、ラフェルはセリファと出会うまで、その言葉の本当の意味を理解する事が出来ていなかった。 「〜〜っぅぁっあ!も、もぉ指、は!やぁ〜・・」 「っもう少し頑張ろうセリファ、もう少しだから・・・」 初めて触れるセリファの秘められた場所は驚くほど狭く、ラフェルの指一本でも飲み込むのに苦労する程だった。それでもラフェルは途中で止めたりせず、その場所が解れるまで手を動かし続けた。たとえ途中でセリファが泣き言を洩らしても与えられる刺激でセリファが身体を震わせ達してしまっても、彼は優しくセリファを解し続けた。 そうしながら、ラフェルの頭はどこか冷めていた。 ラフェルはこの日を、【シルビー】とこうなる事を待ち望んでいた筈だった。 自分の弱点を補ってくれる最高のパートナー。 その相手を手に入れさえすれば、この先魔力暴走に怯えずに生きていける。 子供が儲けられれば尚、都合がいい。 だからこそ女性の方が良かった。 男のセリファが相手だと知った時、色々面倒だと感じたのは事実で、それは全てラフェルの都合であった。 しかしそれはセリファに出会う前のラフェルの客観的な考えであったに過ぎない。 セリファに初めて触れた時の衝撃をラフェルは一生忘れることが出来ないだろう。セリファの全てが足りない自分にピッタリと合わさったのを彼は確かに感じとる事ができたのだ。 流れてくるセリファの穏やかな魔力の波が心地よく、その甘さがラフェルを魅了した。こんなにも心地が良いのに、不安気にラフェルを見るセリファの瞳から目が離せなかった。 セリファはラフェルにとって特別な存在になった。 ラフェルはセリファを大切に扱った。 自分の最も大事な【シルビー】が決して誰にも傷付けられぬよう、自分の側から離れていかないように。 あわよくば、従順なセリファ自ら深く触れる事を許して欲しいと思った。 そして、セリファはそれを許してくれた。 魔力交差を行うだけのパートナーを望むのであれば、ラフェルは望み通りセリファを手に入れる事が出来たといえる。 だがラフェルは今、自分は間違えたと思っている。 「セリファ、挿れるよ」 「・・・ぅん。ラフェ、ル・・・いれ、て・・」 成人したセリファがラフェルに望んだのは、ラフェルに愛されることではなく【シルビー】の役目を果たしたいという義務だった。 当初彼は自分の家族を救う為、自分の身をラフェルに売った。ラフェルにそんなつもりがなくともセリファはそういう認識でラフェルの下へ来た。 それを知ったラフェルもセリファの家族を援助した。 セリファを買うとは一言も口にしなかったが、そう思わせておく方が結果的に都合が良かった。 そういうことにしておけばセリファが逃げ出す事はないという打算的な思いがあったのは確かだった。 お金を返済したいと口にしたのを聞いた時、ラフェルはセリファを失うのではと不安になり、よく話を聞きもしないでセリファの望みを切り捨てた。 "それとも、全てをなかった事にしたいとでも?" あの言葉を聞いたセリファは一体どんな気持ちになったのだろう。ラフェルは役目を果たしたいと泣いたセリファの姿を目にしてやっと自分が重大なミスを犯した事を知った。 泣きながら訴えたセリファの言葉の意味を理解した瞬間、自分がセリファに向けるこの気持ちがなんであるのかハッキリと自覚してしまったのだ。 本当は、こんな形でセリファを抱きたかったわけではない。 「ーーーーーーッラ、フェル・・くる、しぃ」 「・・・セリファ、ゆっくり息を、吐いて」 この世界で唯一の存在を手に入れたラフェルの心は身体の熱とは裏腹にゆっくりと冷たい水の底に沈んでいくようだった。 (彼の事情を知った時にセリファを家に帰すべきだったのに・・・) ラフェルが正式な手順を踏むのであればセリファの立場を守る為、まずはセリファが【シルビー】である事と彼の家の援助の問題を切り離しておくべきだった。 成人していないセリファに判断を委ねるのではなく、セリファの両親に直接お金を貸し、セリファが大人になるのを待ってから改めてセリファに【シルビー】として側にいて欲しいと申し込まなければならなかった。 けれどラフェルはセリファを手放したくなかった。 確実にセリファを自分の手元に置きたかった。 例え少しの間だったとしてもセリファから離れたくないと思ってしまった。それ程までにラフェルはセリファを欲していた。 "運命の相手" ラフェルはセリファを見つけた瞬間、恋に堕ちていたのだ。本人も、気づかぬうちに。 「っは、ラ・・・フェ、ル」 「ーーーーーーッセリファ!」 (それでも、私は・・・君を、手放す事ができない) しかし【シルビー】(セリファ)は、違う。 【シルビー】は、運命の相手など必要ない。 【シルビー】は一人でも平気なのだ。 その事実だけがラフェルの目の前に投げ出されている。 運命を感じ取れるのは【シルビー】の番と呼ばれる者達だけ。だからこそ彼等は自分の【シルビー】を振り向かせることに必死になった。 【シルビー】の手に入れる為に。 【シルビー】を見つけた幸運な者達は、皆【シルビー】に恋をした。 しかし、同性の【シルビー】を手に入れた者達の多くは、自分が抱くその感情を恋だと認めなかった。 そうやって結局、彼等はこの世で最も大切な【シルビー】を最後には失うことになったのである。

ともだちにシェアしよう!